第14話 おうおう上等でい

 ミアルが階段を降りてから、一〇分以上の時間が立っていた。

 思ったより、遅いの。


 ミアルがすぐに帰ってこないということは、わしの調査したことに興味を惹かれているということでもあろう。

 だとすると、内部でわしやリーリアの扱いをどうするか揉めておるといった所か。


 ミアルが捕らわれたという可能性もなくはないが、そんなことなかなかできることではあるまい。

 むしろ、ミアルがキレて暴れている可能性の方が高くて怖いくらいじゃな。


 待っている間にわしらがしていることと言えば、人間観察もとい、ゾンビ観察である。

 見張り台という見晴らしがよく、安全な場所から観察できるのは中々にありがたい。


 行動観察などではなく、面識のあるゾンビもどきを探してその者の魔力量がどうであったかを確認する作業がメインである。


 ここは魔法使いの育成もしくは魔法の研究者を育て学校であるから、魔法が使えることが入学の条件である。

 魔法使える程度には必ず魔力は持っているわけじゃが、魔力量はかなりのバラつきがある。

 魔法使い志望の方が比較的魔力は多く、研究者志望の方が少ない。

 一般的にはというだけであって、魔法使い志望でも魔力が少ない者や研究者志望でも魔力が多い者もおるがの。


 で、今確認しているのは、ゾンビもどきになった生徒の魔力量が少ない者であるかどうかじゃ。

 ゾンビもどきに噛みつかれた時間も関係している可能性もあって、一概には言えないのじゃが魔力量が少ない者が発症したと考えている。


 なんじゃがのぅ。

 グラウンドにいる者や本館にいたゾンビもどきのほとんどが知らん顔なのじゃよ……。

 はっきりわかるのはナナイくらいのものじゃ。

 ぐむむ、交友関係が狭いのではなくて、見張り台からは距離があって顔がはっきりわからぬだけなんじゃからの!


 リーリアが確認できた数人は、研究者志望であったり、魔法使い志望でも魔力の少ない者であるらしい。

 ナナイは研究者志望で、確かに魔力が少なった。

 やはり、発症と魔力に少なくない関係があるのではないだろうか。


 学院の外に目を向けると、正門付近にゾンビもどきが増えているようじゃった。

 学院を出てしまえば、魔法を使える者は一気に少なくなる。

 街には無事な者の方が少ない状況かもしれんな……。



 一通り観察を終え、リーリアの体調に変化がないかを確認していると、ようやくミアルが戻ってきた。

 少し疲れた顔をしておるようじゃが、全員で中に入れる許可をもらってきてくれたようじゃった。

 わしらはミアルを先頭に、ゆっくりと階段を降りていった。


 階段を降り切ると、大人が二人と生徒が二人待っておった。

 大人はこの学院が誇る火属性の権威であるエンジ教授、わしらが所属する研究室の長であるヒリア教授。

 生徒は生徒会長であるフリットと、名前は忘れてしまったが、確か副会長の女子生徒である。

 ヒリア教授は、わしらが彼女の研究所に属しているから来てくれたのであろう。


「わしはユーレ・イコーデルですじゃ。わしらのためにお時間を割いて頂き、感謝に堪えないのじゃ」


「ふん。挨拶は良い。お前の話を聞かせてもらおうか」

「ユッコちゃんが無事で何よりだわ」

「君が飛び級で入学した上、半年足らずで研究論文を出した子だね。同じ学院の生徒として、結果を出している君を誇りに思うよ。

 さぁ皆さん、こんな所で立ち話もなんです。あちらへ席を移しましょう」


 三者三葉であるな。

 ヒリア教授にはナナイのことも報告しておきたかったのじゃが、そうもいかぬようだ。


 見張り塔の階段を降りると、すぐにだだっ広い訓練場が広がっている。

 その中でも、訓練場には舞台のような一段高くなった場所があり、そこは分厚い暗幕で仕切られておった。

 その舞台上に机や椅子があり、教授たちの話し合いの場になっているようだ。

 わしらはそこに案内される。


「そこの生徒はゾンビに噛まれているのだったな。隔離しろ」


「エンジ教授、お待ち下され。わしは三人一緒でとお願いしたつもりじゃったのですが?」


「ふん。訓練場には入れてやっているだろう? 何が不満だ」


「極限状態に置かれている集団の中に、リーリアを放り込めと? 冗談はやめてほしいのじゃ」


「ふん、ガキのくせに生意気だな。ここにいる私達がこの集団の頭脳だ。何かあったら困るのはここにいる全員なのだぞ」


「ミアルが監視と何かあった時に対処するとお伝えしたと思っておるのですが? そちらこそ何が不満なのですじゃ?」


「エンジ教授、ミアルは軍式格闘術を修めている研究室きっての武闘派です。ミアルが対処するというのであれば問題はありません。

 ユッコちゃんも喧嘩腰にならないの!」


「うっ、申し訳ないのじゃ……。エンジ教授、失礼なことを言ってすまないのじゃ……」


「ふん。まぁよかろう。それで、貴様が得た情報とやらを教えてもらおうか」


 コイツ随分と偉そうじゃの? いやまぁ実際偉いんじゃが。


 ヒリア教授の顔を立てるためにも、今は我慢はなのじゃ……。

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