第33話 お主のキャラのせいじゃな

 死霊術は、魔力によって死者を動かす。


 それは当然じゃな。

 死者には体を動かすエネルギーなどないのじゃから。


 死霊術と一言で言っても複数あるのじゃが、一般的に知られている死後に操る物が一番わかりやすい。


 その死後に操る死霊術は、魔力に一定の指向性を与える物じゃ。

 例えば、歩けとか、攻撃しろとかじゃな。

 注意すべきは魔力で動かしておるから、能力は一定になってしまうことじゃ。

 つまり、生前の能力に左右されんということじゃ。


 奴らはこの死霊術と似ているが、決定的に違う所がいくつもある。


 当然じゃが、生きておる。

 現段階では指向性を与えられた動きではなく、本能に近い行動をしておる。

 生前の能力である魔法を使用する。


 実験を続ければもっと差異がはっきりしてくるじゃろうが、今ははっきりと言えるのはこんな所じゃろうか。

 限られた時間しかないゆえ、これを踏まえた上で新たな検証項目を増やして実験をしていかねばなるまい。

 死霊術士であることは隠しておるからこのまま伝えることはできんのじゃが……。


 わしは新しい観点で検証をしたいことをみなに告げる。


「ナナイ先輩の前で魔法を使うっていうのはいいんだけど、私かモイブ先輩に首トンするってどういうこと!? 私絶対嫌なんだけど!?」


 リーリアが悲痛な叫びを上げる。

 そりゃそうじゃろうな。


「いや、わしも心苦しいのじゃが……。ミアルが奴らに首トンで意識を奪っているのが信じられんのじゃよ。普通あんなことしても無理じゃなかろうか?

 まぁ実際の所はわからんから、ストイーヤも犠牲になってほしいのじゃ」


「俺も!? いや、だったら嬢ちゃんでもいいわけだろ!?」


「ストイーヤ先輩、さすがにユッコちゃんにやれっていうのは人としてどうかと……」


「さいてー」


「ぐっ……。確かに見た目的に色々まずいだろうけど……。なんで俺が……」


「ダメ、かの?」


 あえての上目遣いで問いかける。


「あーあーわかったよ! 好きにしろ!」


「ミアル、やっておしまい!」


「アイアイサー!」


「今すぐかよ!? ぐえっ!!」


「ふむ、失敗じゃな」


「あれ? もう一回」


「ちょ、まじ!?」


「いや、さすがにストイーヤがかわいそうじゃ。今まで奴ら相手に失敗したことはなかったんじゃろ?」


「うん。全員一撃だったよ!」


 いい笑顔じゃ。


「それでは、次はリーリアかモイ」


「自分にやってくれ。さすがに女子をそんな目に合わせるわけにはいかない」


「モイブ先輩……。ありがとうございます」


「ストイーヤと違って、男らしいのぅ」


「ほっとけよ!」


「よし、それじゃ行きますね」


「こいっ! ぐっ!! ぬぅ……」


「あれぇ~?」


「ふむ……。これは面白い結果になったの。

 ミアルはもしかしたら魔力を一時的に遮断する攻撃ができておるのかもしれんの。

 平時であったらこの研究もしてみたい所じゃな」


「いやぁ~照れますなぁ~」


 ゾンビ退治のスタンダードになるかもしれん。

 って、わしの天敵ではないかっ!?


 その後は、ナナイから少し距離をとって魔法を使う実験を行う。


 結果は、魔法その物には反応しなかった。

 じゃが、火魔法には反応をしていた。

 これは魔力というより、火そのものというか熱源に反応したのだと思われた。




「暗くなってきたし、そろそろ夕食にしましょう。

 ミアル、また料理をお願いできるかしら」


「了解で~す」


「そういえばスミセンはどうしたのじゃ?」


「あぁ、そういえば見てないな」


「研究棟ならユーレ症候群者はいないんだし、心配することはないんじゃない? そのうち戻ってくると思うけど」


「そうじゃな。ストイーヤと違って手ぶらでは申し訳ないと思っているのかもしれんの」


 苦い顔したストイーヤと苦笑いするリーリア。

 夕食まで、みなと談笑したり、検証項目を確認して過ごした。


 そして夕食ができ上がる。

 メニューは、朝より豪華であった。


 何と肉じゃ!

 しかも肉には何やら旨そうなソースがかかっておるではないか!


「肉は保存もできないし、量も少なかったからこれだけね。明日以降はベーコンかな」


 何はともあれ肉があるのは嬉しいものじゃ。

 わしらはガツガツと食事を終え、紅茶を入れて休憩する。


 そんな一時は、夜空に光る魔法によって終わりを告げる。


「あの魔法、訓練場からSOSだよ!」


 すばやく窓を開けて確認したミアルが叫ぶ。


「ヒリア教授、どうするのじゃ?」


「助けに行くしか、ないわね……。ミアルと私は確定として誰が行くか、ルートも含めて検討しましょう」


 最少人数でまずは状況を確認すべきという意見と、SOSなのだから全員で助けに行くべきという二つの意見で分かれる結果となった。


 わしらの目的を考えれば、全員で助けに行くというのも本末転倒な気がしなくもない。

 じゃが、解決方法があったらどうじゃろうか?

 奴らとなってしまった人の治療法の仮説、これを一つ試してみるとしよう。


「議論の最中にすまんが、二つだけ実験をさせてほしいのじゃ」


「ユッコちゃん、さすがに今は……」


「今だからこそじゃ。奴らの治療方法について一つ仮説があるのじゃ。

 それが実証されれば、今後の方針も決めやすかろう」


「嬢ちゃんがそこまで言うってことは、確度はかなり高いんだろ?」


「半々といった所じゃな」


「上等。俺は賛成だ」


「自分も後顧の憂いが立てれば死地も怖くあるまい」


 いや、物騒じゃな。


「……わかったわ。指示して頂戴」


 わしの指示の元二つの実験が行われ、無事にナナイは正気を取り戻したのであった。

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