第47話 ゾンビジョークを一つ

「会長っ!」


 訓練場から三人の生徒が走ってきて、生徒会長殿に合流する。


「あぁ、待っていたよ。このユーレ君は今後の研究に必要不可欠だ。殺さないように捕まえてくれ。

 ネコとカラスがいる。殺しても死なないから、ズタズタに引き裂いてくれ」


「それどころじゃありません! 教授が、エンジ教授とヤークト教授がこちらに向かってきています!」


「……エンジ教授はヤークト教授の見張りをしていたはずでは?」


「ヤークト教授が大人しく捕まったのも、わしらの作戦の内じゃったからの。

 エンジ教授を説得する時間は十分にあったのじゃ。確かに気難しい教授じゃが、道理がわからん人ではない。

 形勢逆転、かの?」


「君は本当に僕の計画を何もかも狂わせてくれる……。

 だけど、君も自分の正体がここでバレるのはまずいんじゃないのかい?」


「……」


 世間一般的に、死霊術士イメージはとても悪い。

 実際過去に、迫害を受けた死霊術士は少なくない。

 自業自得の者も多いからなんとも言えんのじゃが。


 わし自身、幼少期は死霊術士一家の娘というだけで同年代の子供たちからは距離をとられとった。

 迫害こそなかったものの、やはり周囲からは忌み嫌われておったのじゃろう。


 ミアルやヒリア教授にも隠しているわしの秘密がバレた時、変わらず接してくれるじゃろうか。

 わしは、今の関係が変わってしまうことが怖い……。


「ふふ。思いの外悩ませてしまったようだね。

 さて、僕はここで捕まるわけにはいかないんだ。君と教授達にはしばらくゾンビ共と遊んでいてもらおう」


 生徒会長殿の思惑通り、思考を鈍らせてしまったわしは彼から目を離していた。

 その隙をつき、奴らを引き寄せる魔法を発動しようとしていた。


「クロカ! 奴の指輪を破壊するんじゃ!」


「遅い!」


 生徒会長殿は指輪を頭上に掲げ、先程の光より強い光が指輪から放たれる。


「しばらくすれば、学院中のゾンビ共がここに来るだろうね。

 死霊術を使えない君に、大量のゾンビを凌ぐことができるかな? それとも、正体がバレることも構わずに死霊術を使って状況を打開するのかな?

 あぁ、心配しなくていい。君に居場所がなくなったら、必ず僕が迎えに行くさ。


 そうそう、この場が落ち着いたら寮の僕の部屋を調べるといい。

 魔力回復薬が見つかるはずだ。


 それじゃあユーレ君。

 次会う時までに、僕は君に合うプレゼントを用意しておく。その時は受け取って、できれば良い返事がほしい」


「こんな状況にしておいて、よくもまぁそんなことが言えるものじゃ。

 プレゼントを用意する前に、わしも奴らの仲間入りして死んでおるかもしれんというのに。

 じゃが、せっかくプレゼントを用意してくれるというのじゃ。

 わしが死んでしまったとしても、化けて出てやるとしようかの」


「ははは。君ならではの冗談だね。そうならないことを、僕は信じているよ。

 それじゃあ、君の無事を祈っているよ」


「良い性格をしておるの……。今度会う時は、お主を捕まえる時じゃ。覚えておれ」


 生徒会長殿は、フッと笑みを残して他の生徒会メンバーと共に奴らの包囲を抜けていった。


「おじいさま、死霊術で操っているゾンビには派手に動かさんでほしいのじゃ。さすがに教授らにバレるわけにはいかんからの」


『ふむ。<オーダー>奴らを抑え込むように倒れこめ』


 ここらにいた奴らは一昨日追い出されたばかりの街の人ばかりのようだから、魔法で吹き飛ばされるなどということもないじゃろう。


 ゾンビ達は正面にいる奴らに向かって押さえつけるように倒れ込んだ。

 ほどなくしてエンジ教授とヤークト教授がわしに合流する。


「無事だったか」

「ユーレ君、フリット君は!?」


「生徒会メンバーと一緒に逃げられたのじゃ……」


「そうか……やっぱり彼が今回の首謀者だったんだね……」


「そんなことは後回しだ。この窮地をどう脱するかが先決だろう」


「そうですね……私達がユーレ君を、生徒を守らなければ……」


「ナァ~オ」

「カァー」


 クロネが足元にすり寄り、クロカが反対側で翼をバサバサとはためかせる。

 自分達がわしを守るんだと言わんばかりに。


「ふふふ。お主らも頼りにしておるよ」


「それはなんだ?」


「あ、いや、その……。ま、前に、え、餌付けしておったのじゃ! と、とても賢くて強くて本館でもこやつに助けられたのじゃ! 頼りになるのじゃぞ!」


「貴様は校則という物を読んだことはないのか? まぁいい。そいつらが囮にでも使えれば良いがな」


「なんじゃとっ!?」


「二人とも、言い争う前に手を打たないと囲まれてしまう」


「そ、そうじゃな。わしが停滞魔法で訓練場に辿り着くまで援護するのじゃ。なんとか戻れんかの? というか、訓練場にも奴らが用具倉庫から出てきたのではないのかの?」


「私達が生徒会メンバーを追って出てくるすこし前に、用具倉庫からゾンビ達が出てきた。今はミアル君を中心に鎮圧している。君を助けに行くって大声が聞こえていたけど、残ってくれたようだ。今頃はきっと終わっているはずだよ」


「道は私が切り開こう。貴様は停滞魔法で援護、ヤークト教授も土魔法で援護を頼む」


「了解なのじゃ」

「わかりました」


「行くぞ!」

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