第17話 食糧事情はかなりヤバイ
「すまないが、君たちの力を貸してもらいたい」
会議を終えた生徒会長殿がこちらへ歩いて来て、開口一番こう言った。
「会長、いきなり言われてもワタシは何とも言えないよ。教授達はどんな方針に決めたの?」
わしらで一番の戦力であるミアルが当然の疑問を口にする。
内容によっては、ミアルは断るかもしれんの。
「性急に進めようとしてすまない。
まず、前提条件から共有しよう。
街から学院に逃げ込んできた人に話を聞いたところ、街全体が学院同様にゾンビで溢れているみたいなんだ。
聞いた話だけでなく、領主館とパイソン商会の建物からSOSが撃ちあがったことからも間違いないと僕たちは考えている。
つまり、僕達がこの訓練場に立て籠もっていても、救助は来ない」
SOSの話はミアルからも聞いていた情報であるな。
街がゾンビに溢れているのは予想はしておったが、実際に逃げてきた人の証言があると重みがますというものじゃ。
「そこで、僕達は食料を確保するのが最優先と考えた。
最初に確保しに行く場所は学生寮にある食堂だ。
食料を確保した後は、その量によって今後の行動を再度検討することになっている。
そこで、だ。
ここまでたった三人で来た君達なら十分な戦力になりえると考え、食料確保の協力をお願いしたい」
「なるほど。ん~ワタシは手伝ってもいいと思うんだけど、ユッコちゃんはどう?」
「ゾンビは、どうするのですじゃ?」
「どう、とは?」
少しだけ頭に血が上りそうになる。
「意地が悪いのではないかの? 教授達は、ゾンビを殺すつもりなのじゃろ?」
「え!?」
「……。今無事な人間を最優先にする、それが教授達の、いや僕達の方針だ」
「そうならんようお主らにゾンビのことを伝えたのじゃ!!
それなのに、それなのに!」
「ユーレ君、君の気持ちはわかる。けれど、他にどうすることができるっていうんだ。
僕らは、ここにいる人達を守らなければならないんだ」
「っ!」
わかっておる! わかっておるんじゃ!
わしのこの感情は単なる八つ当たりじゃ!
それでも、それでも!
嫌なんじゃ……。
わしは人の死を多くみてきた……。
もう、嫌なんじゃよ……。
「ユッコちゃん……」
ミアルがそっとわしの目元を拭う。
自分でも気づかぬうちに、涙をこぼしていたらしい。
「幼い君に、こんなことを言う僕を許してほしいだなどと言わない。
僕はすでに罪を重ねているからね。
それでも、僕は僕の責任のため、君たちに再度助力を請う。
ここにいる人達のため、食料確保に協力をしてほしい」
「嫌、じゃ……。わしは、嫌なのじゃ……。
ゾンビ達を、殺さぬというのなら、わしは力になった……。
じゃが、じゃが……」
「殺さなければ、逆に僕らが彼らの仲間入りだ。
そして無事な人はどんどんと少なくなり、ここにいる人達もいずれ全滅する。
賢い君は、本当はわかっているのだろう?」
「それでも、じゃ……」
「それなら君は、どうすればいいって言うんだっ!」
「殺さんでいいようにする!
わし! わしは! 誰かが死ぬところはもう見たくないのじゃ!
じゃから、こうなった原因を突き止めて見せるのじゃ!
元に戻す方法を見つけてみせるのじゃ!」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃないってわかっているんだろう?
だけど、君の意思が固いことはわかった。
君の力は借りない。
けれど、僕たちのことをどうか止めないでほしい。
そして、ここにいるには立場が難しくなることは理解してほしい」
「わかっておるのじゃ。わしは研究棟に戻って、原因を探るのじゃ」
「ちょっとユッコちゃん!?」
「仕方なかろう。食料確保に協力をせんで、食事だけ恵んでもらおうなどとは思わんよ」
「理解してくれて助かるよ。
それで、ミアル君、リーリア君、僕達に力を貸してくれないだろうか」
「会長、すいません。私はすでに噛まれている人間です。
教授達の方針に、どうしても賛同と協力をすることはできません。
私はユッコちゃんと共に、できることをしていきます」
「わかった。ミアル君はどうだい」
「ワタシは……」
生徒会長殿が戦力としてほしいのは、本来はミアルだけじゃろう。
ミアルは確かに体を使うことが得意で好きなわけじゃが、頭が悪いわけではない。
生徒会長殿がミアル自身の戦力を欲しているのは理解しておるじゃろう。
「ワタシは、協力します」
「ミアル……」
「ありがとう。とても心強いよ」
「でも、二つ条件があります」
「聞こうか」
「私を最前線に配置してもらって構いません。
だけど、私は人を殺すことを決してしません。
それで、もし食料を確保できたなら。
その時は食料の内、二割をワタシ達に譲って下さい。
譲って頂いた後は、ワタシはユッコちゃんと合流します」
「ミアル!?」
何を言い出すのじゃこやつは!
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