第52話 学校で有名人?
校門から昇降口、昇降口から階段、階段から廊下をへて教室へ、知っている人も知らない人も俺と美琴を見ては、ひそひそ話する者、きゃっきゃっとはしゃぐ者、俺に殺意を向ける者とまちまちだ。
教室に入るとクラスメイトの注目の中席に座る。田村が直ぐに駆け寄ってきた。
「おぅ、BLボーイ!」
「BL言うな!」
「姫ぇ〜、見たよ見たよ!」
氷川さんもニコニコしながらやってきた。見たよってのはカラオケ大会の昨夜の配信だ。大会前に承諾していたのだが、まさか美琴とキスをするとは予想もしていなかった。
街の小さなカラオケ大会だ。たいした反響もないだろうと思っていたら、かなりの再生回数があったみたいで、学校でも見た人が結構いたって事は、朝の登校で十分に分かった。
「東山君もやるよね! まさか人前であんなことするなんて」
「いや、あれは美琴がだな――」
「うん、わたしもびっくりしたよ! まさか倭人くんが――」
「オイ、あれはお前が――」
「え〜、だってえ……」
「ハイハイ、お二方、朝からお熱いわねぇ」
「はあ〜、あんなん見せられたら神無月さんは諦めるしかないよな。って事で氷室さん、俺とどう――」
「無いわよ」
速攻で一蹴された田村が真っ白になって固まってしまった。
◆
昼休み、教室で美琴とお弁当を食べていると、話したこともない女子生徒達が、俺の席に集まってきた。
「東山様、ぜひ私達のサークルに入ってください!」
「神無月様もお願いします!」
「お二方は神様です! 尊いです!」
「そうです、そうです、二人はプレシャスラブです!」
うん、もしかしてこの人たちは?
「えっと、君たちは?」
「「「私たちは『星屑のナイトメア』を心から愛するサークル『絶愛』です!」」」
だよね〜~。
◆
「今日は疲れたな」
「うん」
放課後の帰り道も、沢山の視線を感じながらワンルームマンションに帰った。
この騒動は結局一週間続き、疲れはてた俺は明けた土曜日に、気分転換にと朝から本屋へと出掛けた。美琴も誘ってみたが、眠気には勝てなかったようで、多分まだベッドの中だろう。
朝の十時は、商店街も人はまばらだが、あと一時間もすれば人集りで賑わい始める。
昼には美琴の飯も作らねばならぬから、さっさとお目当ての本を買って帰るとしよう。
「東山倭人だなナウ」
あと少しで本屋ってところで、俺の前に見知らぬ男が現れた。歳は俺と同じくらい、体格はデブっていて、髪は今どき珍しいオールバックで、めちゃめちゃ似合わないロン毛だ。
「お前は許せないナウ! お前を殺すナウッ!」
はあ?
男は手に持っていたドスを鞘から抜き、俺に向かって突っ込んできた。
刃渡り五十cmは有る刃物だ。刺さればヤバい。俺は身を斜にして躱し、足を出して男の足を引っ掛かけた。
丸い太った体で転がる男。
「痛いッ! 痛い痛い痛い痛いナウッ!」
起き上がった男の頬は、自分で持っていたドスの刃が当たったために、スパッと切れて血が流れていた。
「ぼ、ぼ、僕の血ぃぃぃナウ」
男は自分の頬に、手をあて流れ落ちる血に目を白黒させていた。
「ひ、ひ、人殺しぃぃぃナウ!!」
叫んだ男は手に持っていたドスを投げ捨て、走り去っていった。
人殺しはお前だろッ!!
近くにいた人が警察に通報をしてくれていた。流石にこの場を立ち去るわけにもいかず、警察がくるのを待っていた。
その時、スマホが鳴り、見れば昂ノ月さんからだった。
「おはようございます、昂ノ月さん」
「東山さん、お嬢様はご一緒ですか!」
声が裏返る程に、電話向こうの昂ノ月さんの焦りが伝わる。
「い、いえ。今は一人で買い物に出ていますが……」
「お嬢様のスマホに連絡しても出ないんです!」
美琴が電話に出ないのはよくある言葉だが、今さっき俺は殺されそうになった。
嫌な予感がする。
「俺、直ぐに部屋に戻ります!」
「私も、そちらに向かいます!」
電話を切ると、俺は全力で走りワンルームマンションへと帰った。
「美琴いるか!」
鍵が空いていた美琴の部屋。しかし美琴の姿は部屋には無かった。
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