第5話 掃除のおじさん
神無月が昨夜なぜ泣いていたのかは、学校に行ってすぐに分かった。昇降口で同学年の女子達がニコニコとした会話を聞くに、どうやら神無月と轟はゴールデンウィークを待たずして、別れたらしい。
「……振られたか」
神無月が轟を振ったのなら、神無月が泣く必要はない。つまりは神無月が振られたのだろうし、轟が振った理由は俺が神無月を好きになれない理由と同じかもしれない。
普段は隣の席の神無月を気にかけたりはしないが、今日は流石にそうもいかない感じだ。
何せ教室の空気が神無月を除いて明るいからだ。男子達はワンチャン復活などと、神無月に告白する気が満々の奴らが明るくほざいているし、女子達も似たようなものだった。
俺と神無月の関係はただの隣人で、友達って程の仲ではない。教室で話かけるのも何だか嫌だったので、夜にでもお隣さんの部屋を伺ってみよう。
◆
それは体育が終わった後、当番だった俺が1人で道具を体育倉庫に片付けていた時だった。
『轟くん、神無月ちゃん振ったって言うから驚いたよ』
『淳弥、まだヤッテもいねえんだろ?』
『ヤル前だから振ったんだよ。アイツの香水が臭くてさあ』
轟とお仲間が倉庫裏にいるようだ。そして僅かに臭うこの臭いはタバコだな。
どうやら轟も俺と同じように神無月の強烈な香臭が嫌いだったようだ。
『あんだけ香水付けるって事は、体臭が物凄く臭えって事だろ。ヤッテる時に鼻摘みながらとか無理だつうの』
『いやいや、あんだけの美少女なんだから、それぐらい我慢しろよ』
『ならお前にくれてやれば良かったな』
嫌な話だ。轟達の話を最後まで聞く事なく、俺は体育倉庫をあとにした。
◆
「神無月ぃ、臭いから掃除に来たぞ」
その夜、掃除を理由に神無月の部屋に行く。昨夜と違って今夜はすぐにドアが開いた。
「掃除のおじさんだぁ~、今日も宜しくお願いしま〜す」
「誰が掃除のおじさんだ! ったく」
明るい声の神無月を見て、こいつも頑張ってんだなと、少し関心した。
「先ずはこのゴミ袋だな。俺がゴミ捨てしている間に、見られたら困る物は片付けておけよ」
先日と同じように神無月に言ってから、玄関に山積みされているゴミ袋を階下のゴミ収集場に持っていった。
◆
粗方のゴミを捨て、腐海に埋もれる寸前だった神無月の部屋にクリアな空気が復活する。
「ありがとうね、東山君」
「そう思うなら、毎日ちゃんと掃除しろ」
「………ありがとうね、東山君」
少し涙目の神無月。昨日の失恋に続き、今日の教室の雰囲気は、客観的に見ても厳しいと思う。
「お前さ………。 ありがとうで押し切ろうとしていないか?」
「えっ、いや、あの……ん〜〜〜」
少し考えこんだ神無月はニコッと笑顔を見せた。
「ありがとうね、東山君!」
◆◆◆◆◆
【作者より】
第5話まで読んで頂きありがとうございます。
東山君と神無月さんの仲は今後どうなっていくか見守って下さい。
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