第4話 東山君はバカなの?
夜の住宅街を、まさかまさかの女の子と二人で夜道を歩く。
あの時の俺は臭気に当てられてどうかしていた。学年で一番の美少女だぞ! しかも彼氏持ちだ。そんな女の子を夜中に連れ出すなんて……。
コインランドリーには何人かの人がいたが、運良く一台だけ空いていた。
「ほら」
俺が持っていた洗濯物を詰めた袋を神無月に差し出す。
「なに?」
「なにじゃないだろ、なにしに来たんだよ」
「東山君はおバカなの? コインランドリーにご飯を食べには来ないよね?」
「ああ、だからホラ」
首をコテンと横に倒して不思議そうな顔をする神無月。か、可愛いいけど駄目だ。
「分かんねえか? なら俺が洗濯機に突っ込んでいいんだな」
「いいよ」
なんでそんな事を聞くのよ的な顔をする神無月。
はぁ、やはりコイツはアホだ。この袋の中に下着も入っているのを忘れているのか?
諦めて俺は袋の中から適当に衣服を掴んで洗濯機に投げ込む。下着類をネットに入れるなどの変態行為はあえてしない。
全て投げ入れて神無月を見れば、ベンチに座って相変わらずラノベを読んでいた。
確かに神無月は可愛いい。しかしあの腐臭部屋の住人だ。女子力どころか生活力の欠片もない神無月と付き合う轟は大丈夫なのだろうか?
◆
教室での神無月の香臭は相変わらずきついが、ワンルームマンションの部屋の腐臭が無くなっただけ、俺の体調も回復してきた。使い捨ての活性炭入りマスクを買い続けるのはお財布的には厳しいが、仕方ないと諦める。
香臭に至っては個人の趣味嗜好だ。他人がとやかく言うのは失礼だと思う。大多数が不快に思うならともかく、教室の向こうでは、開けた窓から入る風に乗って漂う神無月の匂いを、鼻の穴を大きく開けて深呼吸している馬鹿野郎達もいるんだからな。
しかし、俺の平穏な夜の生活は一週間ともたなかった。夕食を食べ終えた事だし、お隣さんに文句を言いに行くとしよう。
「神無月ぃ、いるよな」
時間は夜の八時、部屋の灯りはついているから、神無月は在宅だろう。
しかし呼び鈴を何度か押すが、ドアが開く気配はいっこうにない。「寝てるのか?」と思いながらも、ドアノブを回すと鍵は掛っていなかった。
「たくっ、女の一人暮らしなんだから、鍵は掛けろよな」
横着の塊りである神無月だが、腐っても学年一の美少女だ。不用心にも程がある。
そう思いながらも俺はドアを開けた。玄関は既に黄色のゴミ袋の群れに専有されていて腐臭を放っている。僅かな隙間に小さなローファーが脱ぎ捨てられ、黒い虫も通常運転していた。
「神無月ぃ〜、いるよな〜」
部屋の中にそっと声をかけてみる。部屋の奥、神無月の唯一のライフスペースであるソファの上に、膝を抱えて、膝に顔を埋めている神無月が見えた。
そして聞こえる小さな泣き声……。
今日は止めとくか……。
俺はそっとドアを閉めて部屋へと戻った。
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