第53話 ナウじゃねえよ!
「昂ノ月さん、美琴は部屋にいません!」
すぐさま昂ノ月さんに連絡をいれる。
『私の方も確認が取れました。翔吾様が今朝方に家を出たきり連絡が取れていないようです』
「翔吾?」
『美琴様のお兄様です!』
美琴の兄き……。旅先で昂ノ月さんから聞いた、美琴が一人暮らしをする発端となった野郎だ。……もしかして。
「昂ノ月さん、その兄きってデブでオールバックでロン毛ですか?」
『は、はい』
「そいつ、さっき会いましたよ! ドスを抜いて俺に斬りかかってきたんです!」
『本当ですか! 殺人行為じゃないですか!』
「通行人の方が警察に通報してくれています。俺も状況を説明するべきなんですが、今は美琴です!」
『そちらは弁護士を手配します。もう少しで着きますので、少し待っていてください。お館の状況も確認しておきます』
スマホの通話が切れた。
「クソッ、何なんだよ!」
玄関にあった黄色いゴミ袋を思いっきり蹴っ飛ばした。
◆
「お待たせしました」
昂ノ月さんが慌てた様子で、俺が待っていた美琴の部屋に駆け足でやってきた。
「そのクソ兄きが美琴を連れさったんですか」
「はい。ここに来る途中で大家さんに連絡して、防犯カメラを確認してもらいました。髪の長い男、翔吾様と、他に二人の男が映っていたとの事です」
つまり、美琴を拐った後に俺を襲ったってことか。
「それで、美琴は家の方に帰っているんですか?」
「いえ、それは無いです。お館の翔吾様の部屋を確認して分かった事がありました。今日が翔吾様のお誕生日なんですが、彼の……妄想のような手記に、『今日は僕のお誕生日。大好きな義妹と湖畔でディナー。そして夜に僕らは結ばれるナウ』と記されていました」
なんだそりゃ! ナウじゃねえよ!
「それで、その湖畔ってどこですか!」
「神無月家が持つ別荘で、湖畔付近にある別荘は、榛名湖、芦ノ湖、中禅寺湖になりますが、特定まではまだ……」
「芦ノ湖です!」
「え、分かるのですか!?」
「クソ兄きは、ラノベの『オレが妹活初めたら、やって来たのは義妹だった』のラストで主人公が告白するシーンをトレースしてます。あの小説のラストは芦ノ湖湖畔のホテルだったんです!」
「……有りえますね。直ぐに管理人に連絡します」
「俺たちも向かいましょう!」
「そうですね」
怒髪天を衝く思いだ。ドスを抜いて襲いかかってきた時に止めをさしておくべきだった。
昂ノ月さんがコインパーキングから車を回してくる間に、蹴飛ばしたゴミ袋から散乱したゴミを片付けている時に気が付いた事があった。
「とまとがいない」
いつも棚にはクマのぬいぐるみのとまとが飾ってあった。しかし今はいない。美琴が持って行ったのか?
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