第54話 僕たちの世界の扉を開けるナウ

 僕の知る世界では妹が正義だった。そんな世界にこの世界もなるべきだ。


 だから子供の頃から妹が欲しかった。


 ある日、父上が女の人を連れてきた。新しい母上らしいが、僕には関係ないって思ったのは一瞬。


 新しい母上には女の子の子供がいた。飛び切り可愛い子で、僕の義妹になると聞いて、僕の世界が繋がった。


 僕の隣の部屋が義妹の部屋になった! さっそく部屋に穴を開けて義妹の事をよく知る事にした。


 ムフフ♡ やはり義妹はいい。ずっとここで義妹を見ていたい。


 しかし僕の楽しみの穴は直ぐに塞がれていた。畜生! 昂ノ月の仕業だ!


 僕は義妹の全てを知りたい、全てが欲しい、僕の全てになるべきだ。


 僕は父上にお願いして、義妹を僕の物にしたいと言ったら怒られた。


 おかしい。世界は僕と義妹の為にあるのに、なぜ父上は邪魔をするのだろうか。


 しかし、あと少しで義妹は僕の高校に入学してくる。 ひひひ、楽しみだナウ!


 


 おかしい。世界は僕と義妹の為にあるのに、義妹は僕の高校に入ってこなかった。


 しかも、僕に相談もなしに家を出て行ってしまった。


 またこの世界がつまらなくなった。またこの世界が壊れた。僕の世界は妹で溢れかえっているのに。



 連絡がきた。ネットで雇った知らない男達だけど、義妹がカラオケ大会の配信に出ているのを教えてくれた。


 会えない時間が、会えない距離が、二人の愛をより強くしてくれた。


 僕はワクワクしながらカラオケ大会の配信を見た――――なんだ、コイツは!


 僕の義妹に手を出している不届き者。――――なにィッ!! いまキスしたよね! なにしてくれちゃってんだよ!


 ああ、殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺そうねナウ!


 ネットで雇った男達が義妹の住むワンルームマンションを見つけてくれた。うふふ、迎えに行くよマイスイートシスターナウ!



 義妹の部屋に迎えに行くと、「なにしに来たの!」とか、「早く帰って!」とか、相変わらずのツンデレで、僕にはいつもツンツンしているけど、この後にデレデレがあるのを僕は知っている。何しろ義妹の本棚には『オレが妹活初めたら、やって来たのは義妹だった』があるじゃないか!


 義妹も兄恋に憧れていた。もう僕たちは相思相愛だナウ! 


 義妹には少し眠って貰い、ネットで雇った男の車に乗り込んだ。


 今日は僕の誕生日だ。せっかくだから、義妹が憧れている小説のように、湖畔でのディナー、告白、そして二人は白いベッドで朝をむかえるのだナウ!


 僕の膝で寝ている義妹の美しい寝顔を見ていた僕。車の後部座席で楽しいドライブをしていた時に、歩道を歩く憎っくき顔を見つけた。


 殺すッ!


 僕はリュックから裏通販で買った短刀を取り出した。いきなり異世界転移とかしたら大変だから、リュックには便利ツールが色々と入っている。


 車を止めてもらい、僕は歩道の向こうから歩いてくる憎き男を睨みつけた。


「東山倭人だなナウ」


 僕を見る憎き男の顔を見ると、あのキスシーンが頭をもたげる。許せん!


「お前は許せないナウ! お前を殺すナウッ!」


 僕は手に持っていた短刀を鞘から抜き、憎き男に向かって突っ込んだ。しかしコイツは卑怯にも、僕の短刀を避けて、更に足を引っ掛けてきた。


「痛いッ! 痛い痛い痛い痛いナウッ!」


 アイツのせいで、僕の頬に短刀があたり、頬から血が出ている。


「ぼ、ぼ、僕の血ぃぃぃナウ」


 こ、コイツは僕を殺すきだ。


「ひ、ひ、人殺しぃぃぃナウ!!」


 僕は慌てて車に戻った。ちきしょう! 次は確実にお前を殺す!



 車は芦ノ湖湖畔の別荘についた。


 ヒヒヒ。さあ、僕と義妹の素晴らしい世界の扉を、いま開こうナウ!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る