第49話 決勝戦。最後は、えっ、マジか?
千手観音のおばさんが歌い終わると、流石の美琴も緊張した面持ちで、ステージの袖から会場を見つめていた。
「美琴」
「…………」
美琴にしては珍しいな。こいつに緊張という言葉があるとは思わなかった。
「美琴」
「な……ぅグッ」
美琴の肩を叩き、振り向いた美琴の頬に突き出した俺の人差し指がささる。
「ヒホイお〜、やまほくん〜」
「緊張しすぎだ。さんざん練習してきたんだから自信を持てよ」
「う、うん」
少しは緊張が取れたかな?
「ねえ、倭人くん」
「なんだ?」
「優勝したらご褒美!」
「ファミレスにでも行くか?」
「ん〜、また遊園地に行きたいな」
「いや、山梨とか無理だろ」
「千葉のだよ」
千葉と言えばDZニーランドか。あそこなら、まあ大丈夫だな。
「ヨシ! 優勝出来たら賞金で遊びに行こう!」
「うん!」
千手観音のおばさんの得点は九五点だった。観客の評価点が九点で百四点となり、その前に歌ったお兄さんが百八点で暫定トップだ。
決勝戦用の学園祭バージョンの青いコートを俺が、赤いコートを美琴が纏う。
「行くぞ」
「うん! 頑張ろうね!」
◆
「「「キャアアアアアア!!」」」
俺たちが薄暗いステージに出ると、神谷さんのお友達グループから大きな歓声があがった。
「史也アアアアアア♡」
「颯太く〜〜~~ん♡」
……俺たちの応援っていうより
ノリノリの歓声の中、スローテンポの前奏が流れる。
「時を刻むお前の夢 彷徨う闇 瞳開き見つめる深淵――――」
俺が歌いだすと会場のお客さんは静かに聴き入ってくれている。そして、俺の持っているマイクを美琴に手渡す。
「あなたの光 永久の光 黒き翼に宿る焔 僕は――――」
美琴の透き通る綺麗な声音と切ない音色が、ガラスの様な壊れそうな
俺は美琴の持つマイクに顔を寄せて、一つのマイクで声を重ねる。
「「堕ちた太陽 闇の翼 刃は光を切り裂き 俺たちの未来を照らす――――」」
『星屑のナイトメア』を知っている神谷さんのお友達グループは、作品中の史也と颯太に心を重ねたのか、涙を流しながら聴いてくれていた。
「お前の闇を」
「君の光を」
美琴の持つ一つのマイクで歌っているので、お互いの顔が近くなる。美琴の花の様な香りが俺の鼻を撫でた。出逢った頃の強い香臭は今はない。
「「光と闇の翼 羽ばたく空 奏でる音は時空を超える 神話の未来は―――」」
美琴の肩に手を回し、頬が重なり、少し恥ずかしい気持ちとともに、ラストを歌う。
「お前の光を」
「君の闇を」
「「破壊したいほど愛してる」」
神谷さんの振り付けで、歌い終わりは互いの唇が接するほどに近づけて終わった。
オイッ!
美琴の唇が俺の唇に重なっている。振り付けにはないマジキスだった。
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