第20話 彼氏が出来るまで
「美琴ぉ、急がないと遅刻するぞぉ」
月曜日の朝、美琴の部屋のドアの前で、制服に着替えている美琴を待っていた。
土日も結局俺の部屋に泊まった美琴は、朝食を取った後に学校の準備のために部屋に戻っている。
因みに最初の日以外は、同じ布団で寝る事はなく、俺はリビングのソファーで寝ていた。
年頃の男女が三夜を共にするのもどうかとも思ったけど、俺が美琴の事を放っておけなかったのだから仕方ない。
困っている女の子を助けたいってのは男の性なんだろうかね。
「まだ、時間あるよぉ」
部屋から出てこない美琴が、余裕をかましている。しかし、時間なんて有ると思っているうちに無くなるものだ。
「早くしろよ」
◆
「神無月は楽しそうだな」
「美琴だよね」
「……いや、それは無理」
学校に向かう通りを二人で並んで登校している。前を歩く三人の女子生徒が、たまに振り替えっては俺達を見てくる。そのたびにキャッキャッと話す声が聞こえてくる。
「何で無理なのかな。かな?」
俺を見上げて、頬をプぅ〜と膨らまして「かな?」と聞いてくる美琴に、「マジ勘弁して下さい」とお願いする俺。プライベートならともかく、教室で美琴なんて呼ぼうものなら、男子生徒に殺されかねない。
校門を抜ける頃には、ほとんどの生徒が俺と美琴を見ていた。更に言えば男子生徒の突き刺さる視線の雨あられだ。
針のむしろになりながら、ようやく下駄箱に辿り着く。美琴の下駄箱には、先週に引き続きラブレターが数枚入っていた。
「むぅぅぅ、また断りに回らないと……」
「モテる女の子は大変だね。フツメンの俺には分からない苦労だけ……ど!?」
俺の下駄箱を開けたら、人生初めて見る伝説のお手紙が五、六枚入っていた。
「オオオオオオオオオオッ!!!」
その手紙を一枚づつ丁寧に下駄箱から取り出す。何でこんな事が? 人生モテ期がいきなり来たぞ?
試しに一枚開けてみた。
『先日の校門での姿がカッコ良かったです。お付き合いして下さい』
なるほど、クソドレッドヘアとの一件で俺の株が上がったようだ。ウキウキしながらお手紙をリュックに入れていく。
「楽しそうだね」
「まあね。初めて貰ったからな」
「で、どうするの?」
「何が?」
「誰かと……お付き合いするのかな」
美琴は寂しそうな顔で俺を見上げている。彼女は欲しいけど……今はやっぱり美琴が心配だよな。
「今は、いいかな」
「……何でかな?」
美琴が真剣な顔で俺の目をジーと見つめている。
「美琴に彼氏が出来て、バトンを渡すまでは美琴を一人にしない。約束だからな」
「わたしに彼氏が出来るまで?」
「そりゃそうだろ。彼氏が出来て俺がいたら、お呼びじゃないだろ」
「ふ〜ん、わたしに彼氏が出来るまでかぁ〜。ふ〜ん」
さっきまでの寂しい顔はどこにもなく、何やら企んでいる様な悪い顔をしていた。
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