第20話 彼氏が出来るまで

「美琴ぉ、急がないと遅刻するぞぉ」


 月曜日の朝、美琴の部屋のドアの前で、制服に着替えている美琴を待っていた。

 土日も結局俺の部屋に泊まった美琴は、朝食を取った後に学校の準備のために部屋に戻っている。

 因みに最初の日以外は、同じ布団で寝る事はなく、俺はリビングのソファーで寝ていた。


 年頃の男女が三夜を共にするのもどうかとも思ったけど、俺が美琴の事を放っておけなかったのだから仕方ない。

 困っている女の子を助けたいってのは男の性なんだろうかね。


「まだ、時間あるよぉ」


 部屋から出てこない美琴が、余裕をかましている。しかし、時間なんて有ると思っているうちに無くなるものだ。


「早くしろよ」



「神無月は楽しそうだな」 

「美琴だよね」

「……いや、それは無理」


 学校に向かう通りを二人で並んで登校している。前を歩く三人の女子生徒が、たまに振り替えっては俺達を見てくる。そのたびにキャッキャッと話す声が聞こえてくる。


「何で無理なのかな。かな?」


 俺を見上げて、頬をプぅ〜と膨らまして「かな?」と聞いてくる美琴に、「マジ勘弁して下さい」とお願いする俺。プライベートならともかく、教室で美琴なんて呼ぼうものなら、男子生徒に殺されかねない。


 校門を抜ける頃には、ほとんどの生徒が俺と美琴を見ていた。更に言えば男子生徒の突き刺さる視線の雨あられだ。


 針のむしろになりながら、ようやく下駄箱に辿り着く。美琴の下駄箱には、先週に引き続きラブレターが数枚入っていた。


「むぅぅぅ、また断りに回らないと……」

「モテる女の子は大変だね。フツメンの俺には分からない苦労だけ……ど!?」


 俺の下駄箱を開けたら、人生初めて見る伝説のお手紙が五、六枚入っていた。


「オオオオオオオオオオッ!!!」


 その手紙を一枚づつ丁寧に下駄箱から取り出す。何でこんな事が? 人生モテ期がいきなり来たぞ?


 試しに一枚開けてみた。


『先日の校門での姿がカッコ良かったです。お付き合いして下さい』


 なるほど、クソドレッドヘアとの一件で俺の株が上がったようだ。ウキウキしながらお手紙をリュックに入れていく。


「楽しそうだね」

「まあね。初めて貰ったからな」

「で、どうするの?」

「何が?」

「誰かと……お付き合いするのかな」


 美琴は寂しそうな顔で俺を見上げている。彼女は欲しいけど……今はやっぱり美琴が心配だよな。


「今は、いいかな」

「……何でかな?」


 美琴が真剣な顔で俺の目をジーと見つめている。


「美琴に彼氏が出来て、バトンを渡すまでは美琴を一人にしない。約束だからな」


「わたしに彼氏が出来るまで?」

「そりゃそうだろ。彼氏が出来て俺がいたら、お呼びじゃないだろ」

「ふ〜ん、わたしに彼氏が出来るまでかぁ〜。ふ〜ん」


 さっきまでの寂しい顔はどこにもなく、何やら企んでいる様な悪い顔をしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る