第36話 月明りの下で


「な、な、何やっちゃてるんですか!」

「ふふふ」


 ふふふ、と微笑む昂ノ月さんは浴衣ではなく白いバスタオルを胸から下に巻いて、俺の後ろに立っていた。

 俺は星空を見ながらお風呂に入りたかったから外灯は灯していなく、有るのは月の淡い光だけだ。


 暗がりの中とはいえ、白いバスタオルが巻かれている胸元の谷間はハッキリと確認できる。純情十五歳にはあまりにも刺激的すぎる。


「ふふふ、じゃないですよ!」

「寒いから湯船に入りますね」


 聞いてねえし!


 檜風呂の縁をまたぐ白い脚に目を奪われる。太腿とバスタオルの隙間に目が釘付けになりそうになり、慌て目を反らした。


「こ、昂ノ月さんはさっきお風呂に行ってきたばかりじゃないですか!」

「お風呂は何回入っても気持ちいいですよね」


 そういえば、美琴がお風呂に入らなくなった理由は、昂ノ月さんに何度もお風呂に入らされたからだと言っていたな。

 だからと言って、俺と一緒に入る理由にはならない。


「ま、不味いですよ。俺は男なんですよ」

「……そうですね。でも東山様なら大丈夫ですから」


 何が俺なら大丈夫なのかさっぱり分からない。もうひと押しされたら俺のナニが爆発してしまいそうなんですよ?


「もし……」


 もし?


「もし、お嬢様に彼氏が出来た時は、私は東山様に告白してもいいですか?」


 反らしていた目を昂ノ月さんに戻した。


「な、何を……」

「い、今ではないですよ。ただあの時の東山様はカッコ良かったです。ああして男の人に守られた事は無かったから」

「あ、あんな事は誰でもやれますよ」


 そんな俺の言い訳に、魅力的で美しさの混ざった微笑みを湛える昂ノ月さん。夜風が火照ったはずの頬にあたっても、俺の火照りは冷めてはいかない。


「誰でも……は無理かな。むかし付き合っていた人は逃げ出してしまいましたから。あの時はたまたま他の方が警察官を呼んでくれて助かりました。だから私、車から男の人が降りてきた時は、凄く怖かったんですよ。でも東山様が助けてくれました。……東山様、誰にでも出来る事では無いのですよ」

「…………」


 月の淡い光が、昂ノ月さんの瞳に浮かぶ雫を瞬かせた。


「でも……駄目ですかね。お嬢様はたぶん……ぃ……ぉ選ぶから」

「えっ、何を選ぶんですか?」


 ボソっと喋った昂ノ月さんの声を聞き取れなかった。


「いえ、まだまだ先のお話かな、という事です」

「確かに、美琴は暫くは彼氏を作らないって言ってましたね」

「ふふふ、そうですね」


 笑みを湛える昂ノ月さんの瞳は美しく、ただその奥には暖かさ、喜び、哀しみ、そして俺を真っ直ぐに見つめるその思いは……。


「東山様……」

「…………」


「春香さぁぁぁん」


 ガラリと母屋の扉が開く。


「わたしも一緒に入りますね!」


 入ってきたのは美琴なんだが、月明かりに照らされたその美体にはバスタオルは巻いていなかった……。暗いとはいえ、綺麗な形の双丘が俺の瞳にインプットされる。


「えっ、倭人……くん?」

「お、お嬢様、こ、これを!」


 一糸まとわぬ美琴に、慌てて自分のバスタオルを被せる昂ノ月さん。


 俺の眼前には綺麗な桃がプリンと現れた。


 ハイ! もう限界ですね!!!


「ガハっ!!!」


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