第26話 美人の昂ノ月さん
「ありがとうな」
警察官が撤収し、俺の部屋のソファーに座る美琴の頭を撫でた。昂ノ月さんは美琴の部屋の掃除に行っている。
「あの人が春香さん?」
「うん。家では、わたしのはお世話を色々してくれていたんだ」
お世話をしてくれる人がいる家って、やっぱお嬢様なんだな。
朝食を三人分用意して、昂ノ月さんを呼びに美琴の部屋に行った。
「凄え!」
美琴の部屋が、美琴の部屋では無くなっていた。
「これがプロの仕事か!」
キラキラと部屋が輝いている。
「東山様、先程は失礼致しました」
「い、いえ」
丁寧に頭を下げる昂ノ月さん。これでメイド服を着ていたら、俺は昇天していたに違いない。
「朝食の支度が出来ましたので、如何ですか」
「……頂いて宜しいのですか」
何か考えながら俺の顔をまじまじと見つめる昂ノ月さん。び、美人すぎる!
「さ、さあ、どうぞ」
俺は赤い顔を自覚しながら、昂ノ月さんを部屋の中に通した。
◆
「美味しい!」
昂ノ月さんが俺の作った味噌汁を飲んで、嬉しい事を言ってくれた。
「粉末だしの味噌汁ですよ」
「いえ、ワカメの塩分と味噌のバランスが絶妙です。それに玉子焼きも美味しいですよ」
「そうなの! 倭人くんの玉子焼きって、めちゃめちゃ美味しいんだよね! ハンバーグも唐揚げも美味しいんだよね!」
「朝から唐揚げは作らんけどな」
昂ノ月さんが俺の顔をまた、まじまじと見ている。くぅ〜、て、照れます!
「や、倭人くん!」
「なに?」
「……何でもないよ!」
「なんなんだよ?」
何故かぷくぅと頬を膨らます美琴。
「お嬢様」
「ん?」
「お嬢様の部屋にあったあのゴミはなんですか!?」
「春香さん、ゴミだよ?」
「「…………」」
それは分かってんだよ!
「昂ノ月さんが言っているのは、臭っていたゴミの話だよ。それは俺も気になっていたんだ。ゴミは先日捨てたばかりだろ?」
「冷蔵庫のゴミかな? なんかデロデロになってたから、全部捨てたよ?」
「「…………」」
冷蔵庫かァッ!
まったく気にしていなかった! てか、料理をしない美琴が、冷蔵庫に腐る物を入れているとは思えない。
「お前が冷蔵庫に何の用があるんだ? 飲み物ぐらいだろ?」
「えへへ。引っ越してきた時はお料理しようと思ってたんだよね」
「……それでどうした?」
「えへへぇぇぇ」
だよな。つまりは一カ月前の食材が腐り、それを黄色のゴミ袋に入れた物が臭気を発していたっぽい。
「お前さぁ、よくそんな中で寝起きできるよな?」
「んふふふぅ、慣れだよ、慣れ。凄いでしょ!」
「凄かねぇよッ!」
相変わらず美琴の嗅覚の異常さには溜息しか出ない。
「お嬢様……、やはり私も一緒に……」
「駄目だよ。ここは一人部屋だよ」
「上の階に空き部屋があります。今の仕事が終わりしだい、引っ越してきます!」
「大丈夫だよ。掃除も、料理も、洗濯も、倭人くんがやってくれるから」
「お嬢様ぁぁぁぁぁ」
涙を流すほどにガッカリしている昂ノ月さん。気持ちは分かります。
「それで、春香さんは何しに来たのかな?」
「休み前に連絡しましたよね?」
「されてないよ?」
「メールしましたよね。既読もついてましたよ?」
「適当に押してたから、読んでないかなぁ」
こ、コイツには絶対にメールは送らんぞ。てか、氷川さん、美琴にメールとか送ってんじゃね? 大丈夫か?
「はぁ〜、今日からお友達とご旅行の話です」
「旅行? 友達と?」
「はい。旦那様がお嬢様と御学友との親睦を含めて欲しいと、山梨の旅館をご用意してくださっております」
「お父様がぁ? ん〜、友達かぁ~」
そう呟く美琴が俺の顔を見ていた。
俺か?
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