第26話 美人の昂ノ月さん

「ありがとうな」 


 警察官が撤収し、俺の部屋のソファーに座る美琴の頭を撫でた。昂ノ月さんは美琴の部屋の掃除に行っている。


「あの人が春香さん?」 

「うん。家では、わたしのはお世話を色々してくれていたんだ」


 お世話をしてくれる人がいる家って、やっぱお嬢様なんだな。


 朝食を三人分用意して、昂ノ月さんを呼びに美琴の部屋に行った。


「凄え!」


 美琴の部屋が、美琴の部屋では無くなっていた。


「これがプロの仕事か!」


 キラキラと部屋が輝いている。


「東山様、先程は失礼致しました」

「い、いえ」


 丁寧に頭を下げる昂ノ月さん。これでメイド服を着ていたら、俺は昇天していたに違いない。


「朝食の支度が出来ましたので、如何ですか」

「……頂いて宜しいのですか」


 何か考えながら俺の顔をまじまじと見つめる昂ノ月さん。び、美人すぎる!


「さ、さあ、どうぞ」


 俺は赤い顔を自覚しながら、昂ノ月さんを部屋の中に通した。



「美味しい!」


 昂ノ月さんが俺の作った味噌汁を飲んで、嬉しい事を言ってくれた。


「粉末だしの味噌汁ですよ」

「いえ、ワカメの塩分と味噌のバランスが絶妙です。それに玉子焼きも美味しいですよ」

「そうなの! 倭人くんの玉子焼きって、めちゃめちゃ美味しいんだよね! ハンバーグも唐揚げも美味しいんだよね!」

「朝から唐揚げは作らんけどな」


 昂ノ月さんが俺の顔をまた、まじまじと見ている。くぅ〜、て、照れます!


「や、倭人くん!」

「なに?」

「……何でもないよ!」

「なんなんだよ?」


 何故かぷくぅと頬を膨らます美琴。


「お嬢様」

「ん?」

「お嬢様の部屋にあったあのゴミはなんですか!?」

「春香さん、ゴミだよ?」

「「…………」」


 それは分かってんだよ!


「昂ノ月さんが言っているのは、臭っていたゴミの話だよ。それは俺も気になっていたんだ。ゴミは先日捨てたばかりだろ?」

「冷蔵庫のゴミかな? なんかデロデロになってたから、全部捨てたよ?」

「「…………」」


 冷蔵庫かァッ!


 まったく気にしていなかった! てか、料理をしない美琴が、冷蔵庫に腐る物を入れているとは思えない。


「お前が冷蔵庫に何の用があるんだ? 飲み物ぐらいだろ?」

「えへへ。引っ越してきた時はお料理しようと思ってたんだよね」

「……それでどうした?」

「えへへぇぇぇ」


 だよな。つまりは一カ月前の食材が腐り、それを黄色のゴミ袋に入れた物が臭気を発していたっぽい。


「お前さぁ、よくそんな中で寝起きできるよな?」

「んふふふぅ、慣れだよ、慣れ。凄いでしょ!」

「凄かねぇよッ!」


 相変わらず美琴の嗅覚の異常さには溜息しか出ない。


「お嬢様……、やはり私も一緒に……」

「駄目だよ。ここは一人部屋だよ」

「上の階に空き部屋があります。今の仕事が終わりしだい、引っ越してきます!」

「大丈夫だよ。掃除も、料理も、洗濯も、倭人くんがやってくれるから」

「お嬢様ぁぁぁぁぁ」


 涙を流すほどにガッカリしている昂ノ月さん。気持ちは分かります。


「それで、春香さんは何しに来たのかな?」

「休み前に連絡しましたよね?」

「されてないよ?」

「メールしましたよね。既読もついてましたよ?」

「適当に押してたから、読んでないかなぁ」


 こ、コイツには絶対にメールは送らんぞ。てか、氷川さん、美琴にメールとか送ってんじゃね? 大丈夫か?


「はぁ〜、今日からお友達とご旅行の話です」

「旅行? 友達と?」

「はい。旦那様がお嬢様と御学友との親睦を含めて欲しいと、山梨の旅館をご用意してくださっております」

「お父様がぁ? ん〜、友達かぁ~」


 そう呟く美琴が俺の顔を見ていた。


 俺か?

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