第25話 警察
「パトカー、事件か?」
窓から外を見ても車両事故の様子はない。野次馬根性でスウェットのまま外へと出る。
通路に出るとドキっと心臓が跳ね上がる。美琴の部屋のドアが開いているのだ。
中を覗くと警察官が二人いるのが見えた。
『部屋の状況からお嬢さんは数日部屋に戻られていないようです。この腐臭は二、三日では発生しません』
『そ、そんな』
『お嬢さんのスマートフォンとは、まだ繋がりませんか?』
『はい。昨夜から連絡をとっているのですが……』
『私共は隣室の方に確認を取りますので、貴女は学校の方へ確認をお願いします』
部屋の中から聞こえる会話に俺は不安を感じた。
「おや、君は?」
部屋の中の警察官が、開け放たれていたドアの前に立っていた俺に気が付き声をかけてきた。
「隣に住む者ですが……」
「この部屋の住人を君は知っているかい?」
「はい、えっと……」
部屋の中から駆け足で女性が出てくる。
「お嬢様をご存知ですか!」
黒いジャケットとパンツのスーツを着た美人お姉さん。その顔は少し青ざめていて、俺はどう答えるべきか悩んでしまう。
「み、美琴は俺の部屋にいます」
「えっ!?」
「「何ィ!!」」
二人の警察官の声にドスが混ざる。えっ、まさか!?
「ちょっと君の部屋を見せて貰っていいかな?」
「君は学生か?」
「え、えっと……」
何やら俺が事件の犯人にされそうな雰囲気だ。
「お嬢様ぁぁあ!」
お姉さんは俺の部屋に靴を脱ぐ事もなく上がっていき、キョロキョロしてから寝室に入っていった。
「君は神無月さんとはどういった関係かな?」
「と、友達ですよ」
「女の子が朝から遊びに来ていると?」
「えっと、昨夜からです……」
「君はまだ学生だよね」
学生ではありません!とか言ったら火に油を注ぐよな。学生とは大学生や専門学生のことで、高校生や中学生は生徒、小学生は児童って話が、どっかのラノベに書いてあった。
「はい」
「……友達でも女の子を部屋に泊めるのは好ましくないな」
「……はい」
「昂ノ月さんから、昨夜から神無月さんと連絡が取れなかっと伺っているが、何か知っているかね?」
昂ノ月さんってのは、美人お姉さんの事だよな。
「たぶんバッテリー切れだと思います。美琴はそういうのあまり気にしないから」
「君は学校にはちゃんと行っているのかね。それに神無月さんも良くないなぁ。年頃の女の子が親元離れて一人暮らしだから、こんな事件が起きるんだよ」
ムッカァ。俺の事は何を言われても構わない。しかし、美琴は美琴なりに頑張っていたんだ。今はまだ結果が出ていない。ただ、それだけだ!
それに俺は美琴とは何もしてないし、学校にもちゃんと行ってるし、やましいことは何もしていない。
このクッソ警察官、テメエがお巡りじゃなかったらぶん殴ってるぞ!
「俺達は!『倭人くんを虐めないで下さい!』」
美琴!? 朝が弱く、なかなか起きない美琴が玄関から飛び出てきた。
「わたし達はちゃんと学校に行ってるし、大人の人が考える様な事はしてないし、わたしは倭人くんならいいかなって思うけど、倭人くんは何もしてこないし、でも今はそれでいいと思うし、倭人くんは強くてわたしを守ってくれるし、倭人くんは口は悪いけどわたしの部屋の掃除してくれるし、倭人くんはお料理も……うま……く……、やまとく……ん……は……とまと……やまと……く……ぅぅぅ」
「……お嬢様」
続いて出てきた昂ノ月さんを見た美琴は、彼女の胸に寄り添い泣き出してしまった。
「春香さん……倭人くんは……倭人くんは……わたしの……」
美琴は警察官相手に俺の事を沢山擁護してくれた。
美琴は俺の事を信用してくれていた。
美琴は俺の事を信頼してくれていた。
俺も美琴を信用しているし、信頼している。そしてきっと……。
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