第27話 ドライブ
俺が乗り込んだ車は、確かに高級車だが、街中でも見かける白いボディカラーの大型ワンボックスカーだった。
スライドドアから後方の座席に乗り込み、ゆったりとしたキャプテンシートに腰を下ろした。足を乗せるオットマンがある自動車に乗るのは初めてだ。
「どうやって使うんだ?」
「ん〜、分かんない」
俺が脇の下部にあるレバーをあれこれといじっていると、荷物を積み終えた昂ノ月さんが操作してくれて、シートの下からオットマンが出てきた。
「これくらいが宜しいと思います」
「ありがとうございます」
俺はさっそく足をのせ、背もたれを少し倒して、早くもリラックスモードになった。
昂ノ月さんが運転席に乗り込み、車がゆっくりと動き出す。
「サイドテーブルの下がクーラーボックスになっています。好きなお飲み物を飲んで頂いて構いません」
サイドテーブルを後ろにスライドさせて、クーラーボックスの蓋を開ける。中にはお茶にコーラなど色々入っていたが、俺は無難にミネラルウォーターを選んだ。美琴がお茶を取り出し、蓋を閉じる。
思いもかけない旅行に、俺の心はワクワクしていた。
「でも、本当に良かったんですか? 美琴のお父さんは女友達で遊びに行かせようと思っていたと思いますよ」
「旦那様の事ならご心配ありません。私からもしっかりとご報告致しますので」
その報告が一番ヤバい気がするのは気のせいだろうか。
「お嬢様は、日頃から東山様のお部屋にお泊りしていらっしゃいますので、特に問題ございませんよ。ふふふ」
ん〜、昂ノ月さんも少しズレた人なのだろうか? 普通なら男の友達と旅行など言語道断と切り捨てるところを、「お嬢様も痛い目に合う年頃です。東山様なら申し分ないかと」と、わけの分からない事を言っていた。
◆
「後ろの車、煽り運転してますね」
高速道路に入って暫くしての事だった。後方を見ると黒いセダンがオラオラ運転して張り付いている。
「そこのパーキングに避難します」
煽り運転による事件、事故はニュースでよくやっている。たしか妨害運転罪だっかな。犯罪行為となってもまだやる馬鹿野郎はいるんだな。
昂ノ月さんが車をパーキングエリアの車線に車線変更したら、黒いセダンもついてきた。
「……困りましたね。一先ずは人目の多い所に車を止めます」
青い顔でハンドルを握りながら、バックミラーを見ている。ゴールデンウィークって事もあり、駐車場は混雑している。前に支えて止まっている時に、後ろのセダンからガラの悪そうなおっさんが出てきた。
「ザケンなゴラァッ! テメエ何ブレーキ踏んでんだゴラァ!」
運転席側に行ったおっさんが前輪に蹴りを入れている。何だよコイツ?
「女だからって赦さねぇぞゴラァッ!」
昂ノ月さんはハンドルに顔を埋めて、肩がぶるぶると震えているのが見えた。
楽しかったドライブの時間がみるみると壊されていく。美琴も青い顔をして震えだしていた。
このクソおっさん……赦せねぇ。
俺はスライドドアを開けて、車から降りる。
「おっさん、なにイキッてんだゴルゥァァッ!」
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