第28話 友達
(おっさん、なにイキッてんだゴルァッ!)
スライドドアを開けて表に出た時に、開口一番怒鳴りつけたくなった。
しかし、俺はグッと怒りの言葉を飲み込む。俺一人ならどうでもいいが、美琴に昂ノ月さんがいる今、彼女たちを守る為にも、ブチ切れるわけにはいかない。
「止めて貰えませんか」
それでも俺が絞り出した言葉には、怒りの気持ちが思いっきり乗っていた。
そしてその気持ちと共におっさんを睨みつける。
「んだあ、このガキィ」
フロントのタイヤを蹴りつけていたおっさんが、睨みを利かせて俺の方へとやってくる。
「あんたがやっているのは、煽り運転だろ。今に警察がくる。困るのはあんたじゃないのか?」
「生意気こいてんじゃねえぞォッ!!」
おっさんは俺の胸ぐらに、ドレッドヘアの矢島の時と同じように手を伸ばしてきた。俺はあの時と同じようにおっさんの手首を握るが、今度は本気だ。握力一〇〇Kgを舐めんなよッ!
「うラァ゛ッ!」
「アギャアァァァァ~っ!!」
おっさんは腰が抜けたかのようにうずくまり、俺の右手にぶら下がるようになっている。
「ィタタタタタタタタタ」
「止めて貰えますかァ゛」
テメエぶっ殺す的な視線で睨みを利かせる。おっさんはさっきまでの威勢は消えて涙目になっている。
幸いにして直ぐにパトカーがサイレンを鳴らしながらやってきた。
◆
「東山様、ありがとうございました」
おっさんは警察官に何やら俺らが悪いような事を言っているが、昂ノ月さんがリアのドライブレコーダーを警察官に渡しているから、おっさんが何を言っても無駄だろうな。
「いえ、昂ノ月さんも美琴も無事で何よりです。しかし何なんですかね、あのおっさんは?」
「……恐かったです」
昂ノ月さんの顔色が悪い。白く細い指先も震えている。俺は美琴にしたようにそっと手を握る。
「な、ひ、東山様ッ!?」
「え、えと、昂ノ月さんの手が震えていたから」
「……東山様はお優しいのですね」
血の気が引いて冷えきっていた手から伝わっていた震えは消えている。
「優しくないですよ。美琴には怒ってばかりです」
「フフフ、東山様はプレイボーイですね」
「どういう意味ですか? もてた試しは一度も無いですよ」
いや、先日ラブレターを貰ったっけか。
「……カッコ良かったですよ」
「俺が? 美琴からも顔はフツメンって言われましたよ?」
「東山様はお嬢様とはお友達なのですよね」
「は……はい。今はそうですね」
「今は?」
「はい。美琴に彼氏が出来るまでは、一緒にいる約束をしましたから」
「……そうですか。フフフ、重ね重ね宜しくお願いしますね。お友達として」
「は、はい。……?」
そう言って微笑む昂ノ月さんの顔色は、先程の青い顔から、少し頬が赤潮するほどに良い顔色になっていた。
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