第29話 旅館

 おっさんはパトカーに乗って去って行った。リアのドライブレコーダーを確認した警察官が現行犯と判断したからだ。

 昂ノ月さんは神無月家の弁護士に連絡をしたので、後は任せて大丈夫らしい。



 ゴールデンウィークの渋滞が続く高速道路を降りたのは午後三時を過ぎていた。

ゆったりとしたシートに座って、車載テレビでラノベ作品のアニメを見たり、スマホを弄っていた俺と美琴は、まあ、部屋でのダラダラとした生活とあまり変わらない時間だったりした。


「富士山だぁ!」

「やっぱ凄えな富士山!」


 一般道も混雑しているなか、白い雪を冠る富士山が車の窓から見えた。普段は絶対に見る事が出来ない富士山にめちゃめちゃ感動を覚える。


「今日はこのまま旅館に向かいます」


 渋滞の中を一人で運転をしてくれている昂ノ月さん。後部シートでダラダラしていて申し訳ないが、運転免許を持たない俺達ではどうしようもない。


 今夜泊まる旅館は河口湖の湖畔にあるらしい。途中コンビニなどで休憩をはさみ、旅館についたのは午後五時手前だった。



「ここに泊まるんですか?」


 目の前には純和風平屋建ての高級旅館があった。先程通過した豪華な門構えにも焦ったが、母屋は更に豪華でありながら落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 玄関ホールも昭和なのか大正なのか分からないが、心地の良い懐かしさを感じる、いわゆるエモい作りになっていた。


 女中さんに案内されて通された部屋に入る。


「おぉぉぉ!」


 広い畳張りの部屋。中央にはお茶請けが置かれたテーブルがあり、その奥には縁側、更に日本庭園風の庭と檜造りの露天風呂が見える。露天風付きの部屋を初めて見たが、部屋から露天風呂が見えたら、恥ずかしくて入れないのでは?


「夕食までまだ時間があります。お二人はお風呂に行ってて下さい。私は少し仕事がありますので」


 そう昂ノ月さんに言われて俺と美琴はお風呂に入る事となった。もちろん部屋の露天風呂ではなく大浴場の方だ。



「極楽だなぁ」


 広い大浴場には当然露天風呂があり、他のお客さんがいない貸し切り状態の露天風呂に足を大きく伸ばして、塀の向こうに見える雄大な富士山を見ながら、無色透明な温泉でしっぽりとしていた。


「倭人くん! 富士山が凄いよね!」


 塀隣の女湯から美琴が声をかけてくる。他に客がいたらどうすんだよ! と思いながらも、「ああ、凄え綺麗だな」と返事をした。



「いいお湯だったね」


 浴衣に着替えて、大浴場入口前にあるベンチに座り美琴を待っていた俺。それほど待つ事なく美琴が出てきたのだが……。


「お、お前なぁ!」

「な、なに?」

「なにじゃねえよ、なんだその浴衣の着方は!?」


 美琴は浴衣の前を重ねていない。前に寄せて腰帯びでお腹を締めているだけだった。そのため、胸元にはほてった色の胸の谷間があらわになっていて、腰から下も際どい隠れ具合で綺麗な素足が見えている。


「浴衣、ちゃんと着て来いよな!」

「き、着方が分からないんだもん!」


 頬をぷくぅと膨らませて上目遣いで可愛く睨んでも駄目だぞ。


「俺のを見てみろ。左が上になるように重ねるんだ」


 美琴がゴソゴソと帯を締めたまま、浴衣を直すが、上手く右下が入らない。


「倭人くん、こっち押さえてて」

「おう」

 俺は美琴の左前の浴衣を押さえてあげたのだが、美琴がゴソゴソとしている際に、浴衣の中のピンクなものがチラっと見えてしまった。


「み、み、み、美琴さん?」

「ん、なに?」

「し、下着は?」

「付けてないよ。部屋から持ってくるの忘れちゃったから」


 グはッ! じゃあ下も履いてねぇのかよ!


 浴衣の裾から見える白く綺麗な太腿に目を向けて、あらぬ想像をしてしまう。ゴクリと生唾を飲み俺は美琴に告げた。


「は、早く部屋に戻ろう」



◆◆◆◆◆

【作者より】

今回のお話は繋ぎのお話になってしまいました。美琴さんのチラッでご容赦ください(^^;

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