第30話 月の女神

「美味しそう」

「凄え料理だな」


 風呂を出て暫くしたら、女中さん達が部屋に料理を運んできた。

 会席膳には、小鉄板の牛ヒレ肉や刺し身、包み焼きに天ぷらなど、普段は食べないような料理が膳に乗っている。


「これはワインですか?」


 膳に乗っている紫色の飲み物。食前酒かなと思い、女中さんに聞いてみた。


「いえ、皆さんは未成年ですから、それは山ぶどうのジュースですよ」


 ん? 全員が未成年って事は昂ノ月さんは十九歳ってことか。もう少し上かと思っていた。危ない危ない、歳とか聞いてたら変なリアクションしていたかもしれんな。


「昂ノ月様、お部屋のキャンセルの方は本日は無いそうです」


 配膳を終えた女中さんが、昂ノ月さんに頭を下げていた。


「いえ、大丈夫です。お手数をお掛け致しました」


 やっぱり無かったか。ここに来る道中で、旅館の部屋に空きがあれば、俺がそちらで寝泊まりしようって話をしていた。


 突然の旅行、美琴の希望もあって一緒に来たが、流石に同じ部屋は不味いと思い、昂ノ月さんにお願いしていた。


「なんかスミマセン」


 無理なお願いをした事に、俺は昂ノ月さんに頭を下げた。


「いえ、その、お部屋が一緒になってしまいますが……」


 昂ノ月さんが少し顔を赤らめていた。今日初めて会った男と同室で寝るのに抵抗があるのはしかたない。


「倭人くんと一緒に寝れるね!」


 ああ、美琴はそうだろうよ! 俺と昂ノ月さんは揃って苦笑いをした。



 食事も食べ終わり、しばらく休んだ後に三人で温泉にいく事になった。部屋を出る前に美琴がちゃんと下着を持っているか確認はしている。


 大浴場に入ると流石にこの時間は人が多い。すでに体を洗っている俺は、屋外の露天風呂に向かった。人のいない岩場に向かい、湯船に浸かって夜空を眺めた。


「はあ、美琴と昂ノ月さんと同じ部屋で寝ていいのか?」


 美琴は俺の部屋で何度かは寝ているが、同じ部屋で寝たのは、俺が寝落ちした初めての日だけだ。


「やっぱ、不味いよな〜」


 そう思いながら、温泉で体を温めた俺は風呂を出て、一人で部屋に戻った。


「……おい」


 食事の片付けを終えた女中さんが、畳の上に布団を三組引いてくれていた。いや、しかしだな……、何で三組を川の字に引いてあるんだよ。


 彼女たちが戻ってくる前に、俺は一組を引っ張って窓際に移した。


 美琴と昂ノ月さんが戻る前に、窓際の布団を専有した俺は、布団に寝転びスマホでネット小説を読み始めた。


 三〇分ほどしたら美琴たちが戻って来たが、布団の配置には疑問を持っていない。ヨシヨシ!



 俺も美琴も、不思議と寝付きがよくて零時頃には眠りについた。


「……何だ?」


 青い月明かりが窓際の俺の寝床を照らしていた。パシャパシャという音が窓の外から聞こえて、なんとなく目を覚ましてしまった。


「……誰だ?」


 窓の外にある部屋付きの露天風呂に誰かが入っている?

 月明かりが逆光となってそのシルエットしか見えない。


「……綺麗だ……」


 そこにいたのはシルエットでも分かる。美琴だ。長い髪が月光で綺羅綺羅と星の光りのように輝いている。


 影絵のように見える体の細いラインも、神秘的で神々しくさえ見えた。


 そこにいる降臨した月の女神の美しさに俺はただただ見惚れていた。

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