第42話 中間考査

「終わったな」

「うん……終わったよ、終わったんだよ」


 ゴールデンウィークが明けて、五月最大のイベントと言える中間考査となった。


 最後のテストをやり終えた美琴の顔には影が差している。


「だからテスト勉強、一緒にやろうって言ったろ」

「えへへ、『オレが妹活初めたら、やって来たのは義妹だった』が凄く面白くて、つい」

  

 テスト前に俺の本棚から持っていった全五巻のラノベだ。確かに一巻からドキドキな展開で一気読みしたくなる小説だが……。


「赤点ぐらいは回避できてんだろ」

「う、う、うぅぅぅ」


 更に顔の影が濃くなる美琴。……駄目なのか?



 そして三日後、明日を土曜日に控えた金曜日にテスト結果が返ってきた。廊下には上位の人達が張り出されているようだが、俺には縁遠い場所であり、隣に座る美琴も似たようなものだ。


「顔色が悪いぞ?」

「…………」

「……大丈夫じゃなさげだな」

「うん……」


 ボソっと美琴が聞き取れないレベルの声で「七十点」と言った。


「一科目でもそんだけ取れればいいじゃん」

「……合計で」

「…………マジ?」

「…………まじぃぃぃ」

「ああ、不味いな……」


 ゴールデンウィークの旅行の終わりに昂ノ月さんから、美琴の事を宜しく頼みますと言われていた。


 テスト勉強も追い込まれればやるだろうなんて甘かった。人間は大きく分けて三つに分けられる。追い込まれる前にやる奴、追い込まれてからやる奴、そして追い込まれてもやらない奴。


 美琴は確実に三番目だ。いや、部屋の掃除が出来ない事は分かってはいたが、テストは別腹などと甘い考えをしていた。


「追試は月曜日だよな?」

「う、うん」

「今夜から俺が張り付く」

「……う、うん」

「ラノベ禁止、スマホ禁止、とまと禁止ただ!」


 美琴が遊びそうな物は全て禁止だ。


「……ピンピーはいいんだよね?」


 ピンピーってのは、俺があげたピンクのクマだ。


「ピンピーも没収だ!」

「……酷い」

「ひ・ど・く・な・い!」


 グスンと涙を流す美琴だが、追試で赤点はマジでヤバいし、昂ノ月さんに合わせる顔がない。心を鬼にするしかない!



 情けない。


「クシュンッ!」


 ズルズルと鼻をすすりながら、ティシュで鼻をかむ。


 土曜日の朝、起きたら風邪を引いていた。頭がクラクラして、くしゃみ、鼻水、怠さ、寒気と完全に風邪の症状だ。発熱もあるみたいで、起き上がる気力が出てこない。


『おはよー!』


 美琴の元気な声が聞こえて、玄関のドアが開く音がする。


『あれ。倭人くん?』


 寝室のドアが開いて美琴は入ってきた。


「倭人くん?」

「……はよ……ゴホッゴホッ」

「や、倭人くん!」


 美琴が俺のベッドに向かって慌てて駆け寄ってきた。


「……わりぃ、勉強見て……やれなゴホッゴホッ」

「倭人くんッ!」


 ああ、昂ノ月さん、すみません。美琴は追試、終わったかもしれません……。



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