第31話 下剋上
「たぶん俺は死ぬな……」
「倭人くんなら大丈夫だよ?」
「いや、間違いなく俺は死ぬ……」
顔面蒼白な俺が、この地獄へ導く乗り物から下を見下ろせば人が豆粒のように見える。前方に見える富士山に、今は綺麗だな、なんて言っている余裕はどこにも無い。
白い竜骨で組まれたような高くそびえるレールは、その先で切れているようにさえ見える。
右手の高度表示が七十メートルを表示している。
カランカランと音を立てて、俺と美琴を乗せた日本屈指のジェットコースター、マウントFGがまもなく八十メートルの頂点に達する。
「やっぱり無理無理無理無理無理」
「大丈夫だよ倭人くん! ほら前の人たちも楽しそうに手を上げてるよ」
そう言って美琴は手摺バーから手を放してバンザイをする。
「ほらぁ、倭人くんもやろうよ!」
「アホッ! 余計に死ぬわッ!」
楽しそうに笑いながら言う美琴。いやいや、無理無理。俺は汗ばんだ手で手摺をギュッと汗握った。
そして消えていく前方の車両と、轟く絶叫!
あっ、落ちる!?
「ギャあああああああああッ!!」
◆
「遊園地に行った事がない?」
「うん! だから絶対に行きたいよ!」
朝食会場で朝食を食べながら今日の予定を話していた時に、美琴が遊園地に行きたいと言い出した。
「千葉のDZニーランドとかもか?」
「うん。中学の校外学習の時は風邪引いて行けなかっんだよね」
「美琴が風邪を引くのか? あの腐海の森の住人に風邪を引かせるとは、随分と気合の入った風邪だな」
「倭人くん、なんかディスってない?」
「いや、関心していたんだ。風邪菌に」
「う〜、やっぱりディスってるよぉ」
「しかし美琴、あそこの遊園地はヤバいぞ」
俺が焼き魚を突付いていた箸を止めて、この近くにある国内最強クラスの遊園地、FJQランドの説明をした。
俺もFJQランドには行った事はない。てか、まったく行く気にならない。あそこはヤバい!絶叫系なら国内最強、泣く子も乗らないヤバいコースターが目白押しだ。
俺の説明に昂ノ月さんも援護してくれて、美琴にヤバさを説明したが、説明するたびに美琴の目が光り輝いて行った……。
◆
「面白かったね!」
「……死ぬかと思った」
コースターから降りて、ふらつく足取りで何とか下で待っていた昂ノ月さんと合流した。
「もっかい乗ろっか!」
「……俺は無理だ……」
あれにもう一度乗れば、俺はヘブンズゲートを確実に開ける自信がある。
「美琴、乗りたいなら昂ノ月さんと乗ってきてくれ」
「わ、私も無理です! 死んじゃいます!」
昂ノ月さんも絶叫系は苦手みたいだ。必死に拒否している。
「じゃあ、みんなで乗れるのにしようか!」
美琴が指差した先にある乗り物は、空を舞っている巨大なピザだった。
……やっぱりお前、俺達を殺す気だな。
こうしてポンコツ娘の下剋上が始まった。
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