第14話 大丈夫だから

「か、神無月、もう大丈夫か?」

「なにが?」


 学校から百均までの道のりを手を繋ぎながら歩いてきた。途中、神無月が離すかと思っていたら、結局そんな事はなく百均に着いてしまった。


 神無月の手から伝わるのは、柔らかく心地よい温もりで、震えや脅えは伝わってこない。


「なにがって、もう怖くないか?」

「うん! わたしって良いことが有ると、嫌な事は忘れられるんだ」

「良いことなんかないだろ? まぁ大丈夫ならいいか。入るぞ」


 俺は神無月の手を離し、百均ショップに入る。


「神無月?」


 入り口に突っ立っている神無月。先程まで繋いでいた右手を見ている。顔色が少し悪いのは気のせいか?


「大丈夫か?」

「う、うん」


 神無月の後ろには、入店しようとする人がいる。


「神無月、邪魔になるから早く入れ」


 俺は神無月の右手を取って、店の中に引き寄せる。


「ひ、東山君……手……」

「あ、悪りい」

「ううん、握ってて。東山君の手が離れたら、また怖くなってきちゃって……」


 言われてみれば、神無月の手が少し震えていた。


「仕方ないな」


 握っていた手を持ち替えて、握手のように持ち替える。あれ?


「神無月?」

「こっちの方が安心できるから」

「し、しかしだな……」

「いいの、いいの、お買い物しよ」


 神無月は俺の指を交互に絡めて握り、明るい笑顔を取り戻して食器コーナーの方へと歩きだした。


 ま、いっか。



「神無月は部屋で待っていいんだぞ」

「ううん、ここで本読んでる」


 俺は買ってきたアサリ等の食材を冷蔵庫に入れ、食器類の包装紙を剥がして、流し台に置く。

 キッチンから振り向けば、神無月はローソファーに体育座りして、早速ラノベを読み始めていた。


 しかしその体制は不味い。角度的には見えないが、学校の短いスカートが捲くれ上がっている。


「神無月ぃ、取り敢えず着替えてこい」

「面倒くさいから大丈夫だよ」


 面倒くさいを主語にする神無月。こっちが困るつうの!


「今からニンニク炒めるから、匂いがうつるぞ」

「気にしないから大丈夫だよ」

「気にしろ!」


 しぶしぶ部屋に戻る神無月。


 俺は下準備としてアサリをザルでガリガリ洗い、ニンニクをきざみ、お湯を沸かして沸騰させる。パスタも茹であがりかれこれ三十分たつ。


「神無月、遅えな。風呂……って事はないか」


 腐海の住人だった神無月が、風呂やシャワーを浴びている可能性はかなり低い。


 気になった俺は自分の部屋を出て、神無月の部屋にいく。ドアの鍵は開いていて、「神無月、入るぞ」と言って部屋へと入った。


!?


「神無月ッ!!」


 部屋の中には膝を抱え、震えている神無月がいた。


「……怖い……怖いよ……東山君……助けて……助けてよ……東山君……」


 俺は玄関に積まれている黄色のゴミ袋を蹴散らし、神無月の元に駆け寄る。一人になった事で、不安な心がクソドレッドヘア野郎を思い出させてしまった。


「大丈夫か、神無月ッ!?」

「……ぁ、ひがしやま……く……ん」


 脅えながら涙を流す神無月の顔は、血の気を失った様に真っ白で、いつも魅力的な小さな唇は黒みがかった紫色で、ガタガタと震えていた。


「ごめんな、ごめんな、神無月」

「……ひがしやまくん」


 脅える神無月を温める様に俺は神無月を抱きしめた。


「一人にしないから、俺がいるから、だから大丈夫、大丈夫だぞ神無月」

「……うん、……うん……倭人・・・くん」

 

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