第14話 大丈夫だから
「か、神無月、もう大丈夫か?」
「なにが?」
学校から百均までの道のりを手を繋ぎながら歩いてきた。途中、神無月が離すかと思っていたら、結局そんな事はなく百均に着いてしまった。
神無月の手から伝わるのは、柔らかく心地よい温もりで、震えや脅えは伝わってこない。
「なにがって、もう怖くないか?」
「うん! わたしって良いことが有ると、嫌な事は忘れられるんだ」
「良いことなんかないだろ? まぁ大丈夫ならいいか。入るぞ」
俺は神無月の手を離し、百均ショップに入る。
「神無月?」
入り口に突っ立っている神無月。先程まで繋いでいた右手を見ている。顔色が少し悪いのは気のせいか?
「大丈夫か?」
「う、うん」
神無月の後ろには、入店しようとする人がいる。
「神無月、邪魔になるから早く入れ」
俺は神無月の右手を取って、店の中に引き寄せる。
「ひ、東山君……手……」
「あ、悪りい」
「ううん、握ってて。東山君の手が離れたら、また怖くなってきちゃって……」
言われてみれば、神無月の手が少し震えていた。
「仕方ないな」
握っていた手を持ち替えて、握手のように持ち替える。あれ?
「神無月?」
「こっちの方が安心できるから」
「し、しかしだな……」
「いいの、いいの、お買い物しよ」
神無月は俺の指を交互に絡めて握り、明るい笑顔を取り戻して食器コーナーの方へと歩きだした。
ま、いっか。
◆
「神無月は部屋で待っていいんだぞ」
「ううん、ここで本読んでる」
俺は買ってきたアサリ等の食材を冷蔵庫に入れ、食器類の包装紙を剥がして、流し台に置く。
キッチンから振り向けば、神無月はローソファーに体育座りして、早速ラノベを読み始めていた。
しかしその体制は不味い。角度的には見えないが、学校の短いスカートが捲くれ上がっている。
「神無月ぃ、取り敢えず着替えてこい」
「面倒くさいから大丈夫だよ」
面倒くさいを主語にする神無月。こっちが困るつうの!
「今からニンニク炒めるから、匂いがうつるぞ」
「気にしないから大丈夫だよ」
「気にしろ!」
しぶしぶ部屋に戻る神無月。
俺は下準備としてアサリをザルでガリガリ洗い、ニンニクをきざみ、お湯を沸かして沸騰させる。パスタも茹であがりかれこれ三十分たつ。
「神無月、遅えな。風呂……って事はないか」
腐海の住人だった神無月が、風呂やシャワーを浴びている可能性はかなり低い。
気になった俺は自分の部屋を出て、神無月の部屋にいく。ドアの鍵は開いていて、「神無月、入るぞ」と言って部屋へと入った。
!?
「神無月ッ!!」
部屋の中には膝を抱え、震えている神無月がいた。
「……怖い……怖いよ……東山君……助けて……助けてよ……東山君……」
俺は玄関に積まれている黄色のゴミ袋を蹴散らし、神無月の元に駆け寄る。一人になった事で、不安な心がクソドレッドヘア野郎を思い出させてしまった。
「大丈夫か、神無月ッ!?」
「……ぁ、ひがしやま……く……ん」
脅えながら涙を流す神無月の顔は、血の気を失った様に真っ白で、いつも魅力的な小さな唇は黒みがかった紫色で、ガタガタと震えていた。
「ごめんな、ごめんな、神無月」
「……ひがしやまくん」
脅える神無月を温める様に俺は神無月を抱きしめた。
「一人にしないから、俺がいるから、だから大丈夫、大丈夫だぞ神無月」
「……うん、……うん……
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