第18話 おやすみ

「そろそろ、シャワー浴びて、寝たらどうだ?」


 時計の針は一時を周り、とりま俺が先にシャワーを浴びて、寝間着代わりのスウェットに着替えた。


 美琴は相変わらず、熊のぬいぐるみを抱いて、ソファーの上でラノベを読んでいる。


「大丈夫だよ」

「何がだよ」

「昨日入ったから」

「……毎日入りなさい」


「えぇぇぇぇぇ」

「えぇぇじゃないだろ。何でそんなに風呂が嫌いなんだよ?」

「ん〜、家にいた時にいっぱい入っていたから、もういいかなぁって」


「言ってる事がいまいち分からないんだが?」

「春香さんがお風呂に入れ入れって、何かあるたびにお風呂に入っていたから、一生分はもう入っちゃったかなぁぁって」


「いやいや、風呂入るのに一生分とか無いから!」

「でもほらぁ、お風呂に入りすぎたから、こんなになっちゃったよ」

「グヴぁぅッ!」


 美琴は胸に左右の手を当ててパヨんパヨんさせやがった。健全健康高校男子には余りにも刺激的なパヨんパヨんだ!


「えへへぇ、冗談だよぉ〜」

「クッ、男の純情を弄ぶなッ!さっさと風呂に入ってこいッ!」


 美琴はちぇ〜と言って風呂場にシャワーを浴びにいった。


「……………」


 風呂場から聞こえるシャワーの音に、さっきのパヨんパヨんを重ねてしまった。


「うぅぅぅ、ベッドメイクでもしてくっか」


 俺は美琴が読んでいたラノベを手にとって、寝室に引き籠もった。



「じゃあ、俺はあっちのソファーで寝てるから」

「う、うん……、ごめんね、ベッド借りちゃって」


 ベッドに熊のぬいぐるみと一緒に入り、布団に顔を半分埋めている美琴。


「じゃあ、灯り消すぞ」

「……う、うん」


 天井のLED照明をリモコンを使って照度を下げる。薄暗くなった部屋から出ようとドアノブに手をかけた時に、美琴の小さな声が聞こえた。


「倭人くん……」

「あん?」

「……やだ……」


 か細い美琴の声が震えている。


「……やっぱり、一人は嫌だよ」


 俺も美琴を一人にするのは心配だった。


「仕方ねえなぁ」


 俺は美琴のそばに戻り、ベッドに腰を下ろした。


「へへへ」


 さっき聞いた震えた声はそこには無かった。


「大丈夫か?」

「うん、倭人くんがいるから」

「何だそれ」


 口元まで被った布団から見える美琴の瞳が笑っていた。


「まったく、子供かお前は」

「えへへへ」

「寝るまで居てやるよ」

「うん」


 美琴はニコりと微笑み、瞳を閉じた。そして布団がモゾモゾと動き、小さな可愛いい手が出てくる。


「倭人くん、握ってて貰っていいかな……」

「たくぅ、子供確定だな」


 クスっと俺は笑ってその手を優しく包み込む。


 そして、暫くもしない間に美琴は幸せそうにスゥスゥと寝息をたてた。


「おやすみ、美琴」

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