第23話 カラオケ

 氷川さんは俺が美琴の隣人である事については他言しないと言ってくれた事で、一先ずは安心できた。


 そうこうしている間に四月も終わりを向かえ、世間はゴールデンウィークに突入した。

 今年のゴールデンウィークは前半部は寂しい。明日は昭和の日だが、土曜日で空振りの祝日だ。しかし後半部は土日もからみ五連休となる。


「美琴はゴールデンウィークは家に帰るのか?」

「ううん、帰らないよ。お父様からは矢鱈に帰ってくるなって言われているし」


 学校から帰ってから、美琴は部屋で着替えた後に、直ぐに俺の部屋に来るのが日課になっている。


「娘に帰ってくるなって珍しいな?」

「わたしも家には帰りたくないし」

「お父さんと仲が悪いのか?」

「そんな事はないよ」


 まあ、他人の家庭をあまり聞くのも失礼だよな。


「倭人くんは?」

「特に何もないな。カラオケに行くぐらいかな」

「わたしもカラオケに行ってみたい!」


 美琴のカラオケか。聞いてみたいな。


「なら明日、行くか?」

「うん、行く行く。わたし、初カラオケだぁ」

「行ったことが無いのか?」

「うん、中学はカラオケ禁止だったからね」


 流石はお嬢様中学校だ。


 時計を見れば十一時を回っている。俺が勉強を始める時間で、美琴が部屋に帰る時間になっていた。

 「一緒にやるか」と誘った事もあるが、美琴は大丈夫だいじょぶ大丈夫だいじょぶと逃げる様に帰っていって以来、無理に誘わない様にしている。



「東山君、久しぶりね」


 行きつけのカラオケBOXの、いつもの受付のお姉さん。


「部屋、空いてます?」

「………」

「……部屋、空いてますか?」

「……彼女だ。東山君の彼女だ……。しかもめちゃめちゃ可愛いいじゃない!」


 受付のお姉さんはあらぬ勘違いをしはじめた。


「学校の友達ですよ」

「ふ〜ん。ヘ〜~〜。東山君の事だからレンタル彼女かと思っちゃった」


 東山君の事って、どういう事だよ!


「いや、いや、そこまでして女の子と付き合いたいって思いませんよ」

「でもホント可愛いい友達ね。ホントは彼女なんでしょ」

「そ、そんな事より、部屋空いてますよね」

「んふふふ〜」


 お姉さんの勘違いは解けないまま、俺達は指定された部屋に行った。


「わあ、凄ぉい!倭人くん、早く歌って、歌って」


 瞳を輝かせて、歌ってアピールを俺にしてくる。まあ、歌を歌いにカラオケに来たのだから、俺はスマホから自分の持ち歌を予約する。


 スローなテンポのイントロが始まる。カラオケに来たらいつも初めに歌うお気に入りの歌だ。


「あ、これって『垢妹』だよね」


 ラブコメアニメ『あかいも』のオープニング曲を美琴も知っていた。


「うわぁー、倭人くん凄く上手い! 声もカッコいい! 倭人くんVチューバーになれるよ!」


 俺の歌をめちゃめちゃ褒めてくれる美琴だが、∨チューバーとか顔出しNGのフツメンですみませんね。


「九五点か、まずまずだな」


 歌い慣れていて、練習もしている曲だけに、初っ端から高得点を叩き出した。


「倭人くん、使い方が分からないよぉ〜」


 リモコンを握り、あたふたしている美琴。俺は美琴の隣に座り、リモコンの操作をしてあげる。


「これがいい」

「おっ、『暗病み令嬢』か」

「うん、病み女子っていいよね」


 美琴がスローなダーク調の曲を選んだ。朝一番の選曲にダーク系を選ぶセンスに疑問はあるが、イントロが流れ、マイクを持って歌う美琴の綺麗な歌声に感動を覚えてしまう。


「倭人くん、九三点だよ!人生初の九十点台だよ!」


 美琴は今日がカラオケデビューだから、カラオケの点数の話をしているわけではないだろうな。


 小学校ぐらいのテストなら九十点ぐらいは取れるチャンスはあるんだが、機を逃したようだ。


 暫く交互に歌い、美琴にカラオケで点数を上げるコツなんかを話しながら楽しく時間を過ごした。


「おい美琴、それデュエット曲だぞ」

「うん、倭人くんと歌いたくて」

「だからって、それを選ぶかぁ?」


 美琴が選んだのはアニメ『星屑のナイトメア』のエンディングだった。BLラノベからの人気アニメだ。腐女子のバイブルとまで言われた原作は流石に読んでいないが、ソフトに仕上げたアニメは一応見ていた。


 すめらぎの低いパートを俺が歌い、鳳凰おおとりの高いパートを美琴が歌う。


 軽快で爽やかな感じの曲で、作品を知っていれば知っているなりに、知らなければ知らないなりに、耳心地の良い曲だ。


 俺達が歌っている時に、昼食用に頼んだピザやポテトを受付にいたお姉さんが運んできた。


 とはいえ俺達は歌を止める事なく歌い続けたのだが、テーブルにピザとかを置いたお姉さんは、ソファーに座って俺達の歌を聞き始めていた。


 歌い終わって、点数は八九点。美琴は上手く歌っていたが、俺があまり聴き慣れた曲じゃ無かっので、幾つか音程を外していた。


 パチパチパチと、何故かソファーに座っていたお姉さんが拍手をしている。


「二人とも凄く上手いッ! 東山君が上手いのは知ってたけど、彼女さんはルックス最高だからアイドルみたいだったわ」

「褒めてくれるのは嬉しいんですけど、今日は椅子にまで座って、どうしたんですか?」


「実は、東山君がお店に来るのを待ってたのよ」

「俺を?」

「そうなの。東山君、それに彼女さん。お店主催のカラオケ大会に出てくれないかな。お願いッ!」


 頭を下げる受付のお姉さん。俺と美琴は視線を合わせると、お互い首をコテンと傾けた。どぉゆこと?

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