第12話 暴漢

 苦手だ。


 下校する生徒が俺を見ている。しかも俺の隣を歩く神無月ではなく、俺を見ているのだ。美少女である神無月の隣は目立ちすぎる。


 昨日、神無月と放課後に一緒に買い物に行く約束をしたはいいが、こんな事になるとは思ってもいなかった。


「早く行こうぜ」


 隣の神無月を急かしてさっさと校門を抜けようとするが、俺と神無月の前に四人の男子生徒が立ち塞がった。


「何かよう?」

「テメエさぁ、人の彼女となに二人で帰ろうとしてんの」


 ん? 背の高いドレッドヘアの男が訳わからん事を言っている。


「神無月?」

「し、知らないよ、こんな人……」

「だよな……」


 ドレッドヘアの男が前に出てくる。


「美琴、帰るぞォ!」


 男が手を伸ばして、神無月の手を握ろうとする。カットインで男の手を俺が弾く。


「やめろよな」

「んだテメぇ〜」


 俺より背の高いドレッドヘアが上から俺を睨み付けるが、俺も男を睨み返す。


「あんたさ、神無月も知らないって言うし、お呼びじゃないみたいだぜ」

「バ〜カ、俺は淳弥から美琴を貰ったんだよ。だから美琴は俺の女だ」


 淳弥……轟か。なるほど、体育倉庫で聞いた声だ。


「とんでもない、勘違いバカだな、おまえ」

「んだとテメぇぇぇッ!!」


 ドレッドヘアの男が俺の胸元に手を伸ばす。いわゆる、胸ぐらを掴むってやつだが、その手を俺はがっちりと握りしめた。


「イテテテテテテテテテ」


 痛がるドレッドヘアの手を捻り上げてから、男の背中に腕を回して、関節を決める。


「ほら、お前、やっぱりお呼びじゃないな」

「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ」


「神無月に近付くな」

「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ」


「分かったら放してやるよ」

「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ」


「痛いだけじゃ、分からないんだけどぉ」

「分かった、分かった、分かっ痛ェェェェェッ!!」


 最後にグイっと背中に回した腕を捻り、ポイっと背中を突き倒す。


「テテテテテテテテ、テメエェェェ」


 校門前の広場に倒れたドレッドヘアが片膝を付いて、俺を睨む。


 ふむ、まだやる気みたいだな。


 ふむ………。


「神無月、逃げよう」

「えっ」


 この手の輩はきりがない。逃げるが勝ちって言うからね。


 俺は神無月の手を取り、走り始める。


 この騒動で集まった野次馬の視線を感じながら校門を抜けていく。


 暫く走って足を緩める。


「神無月、大丈夫?」

「う、うん。な、何なのあの人!?」


「う〜ん、頭のラリった馬鹿野郎かな?」

「……怖い……」


 お嬢様学校出の神無月には恐怖以外の何ものでも無かったようだ。確かに、行き成りあんなのが来たらヤバいよな。


「神無月、暫く俺と登下校しないか?」

「えっ、えっと、う、うん、いいよ」


「また来たら、さて、どうしてくれようかね」

「東山君って強いんだね」

「ま、まあ、中学まで武道をやっていたからな」


 後ろを見ても、ドレッドヘア達の姿は見えない。


「大丈夫そうだな。んじゃ、百均に行こうか」

「………うん」


 気が付けば俺はまだ神無月の手を握っていた。神無月の手から、彼女の震えが伝わってくる。こんな俺の手でも少しは安心させらるのかな?


 俺と神無月は繋いだ手を離すことなく、百均ショップまで歩いていった。

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