第8話 言葉のナイフが突き刺さる

「わたしね、女の子だけの小中一貫校から、上見坂高校に来たんだよ」


 そういう女子校が有ることは聞いた事があったけど、神無月がそうだったとは思いもしなかった。


「本当は系列の女子高校に行くはずだったんだけど、お父様が『お前は少しは世間を知るべきだ』って言って、一人暮らしまでする事になっちゃって」


 お父様って普通言うか? そんな家庭を俺は知らんぞ。つまりは神無月はお嬢様って事か?


「それでね、入学したらすぐに轟君が声をかけてくれて。初めて男の子とお付き合い出来るって、凄く嬉しかった」


 なるほど。右も左も分からないお嬢様に、轟みたいなイケメンが声をかければ一発オッケーは鉄板みたいなもんだな。


「でも、それも十日もしないで終わっちゃって……。しかもわたし、女の子なのに臭いって言われて……」

「まあ、それは実際に臭いからな」

「…………」


 うわぁぁぁぁぁんと泣き出してしまった神無月。めっちゃ焦る俺。俺の十五年の人生で女の子の悩み相談なんぞ1回もした事がないんだ。俺にどうしろと?


「神無月……。言っちゃあなんだが、轟と別れて良かったと思うぞ」

「…………なんで」

「アイツは百戦錬磨、四十八手を極めたジゴロだ。遅かれ早かれ別れていたと思うぞ」 


 ヤッた後でな、とは流石に言えない。体育倉庫で聞いた轟達の胸くそ悪い話を思い出す。その経験は俺にはまだ無いけど、轟の雰囲気はもう何人もの女の子と経験している感じだ。羨ま……じゃない。神無月が毒牙にかからなくて良かったと言うべきだ。


「でもイケメンだったよ」

「神無月が顔だけで付き合いをしたいんならそれでもいいだろうな。でも男は顔だけじゃないぞ」

「東山君みたいに?」


 グサァッ!

 俺の心に言葉のナイフが突き刺さる。


「し、失礼な事を言うね君は。じゃあ聞くけど、轟とはキスとか、そ、その先の行為とかする覚悟はあったのか?」

「………? なにそれ?」


「俺たちの歳の恋愛なら、それぐらいの事はするって事だよ」

「キスかぁ。憧れるけど、轟君とはどうだったんだろう……」


「キスの次には、次の行為があるわけで……」

「次の行為って?」


「………つ、次の行為だよ」

「だから、何なの、次の行為ってなに」


「中学とかで習わなかったか、め、雌しべと雄しべの話」

「理科の?」

「生活の!」


「…………あっ! や、やらしいぃ! 東山君やらしいよ! やっぱり変態だよ!」

「変態言うな! 俺じゃねえよ! お前と轟の事だつうのッ!」

「わたしぃぃぃぃぃッ!? 無理無理無理無理、お母さんになるにはまだ早いよ!」


 さ、流石は純粋培養で育ったお嬢様だ。行き成りお母さんになる事になっている。


「そっかぁ、わたしには恋愛は早かったのかなぁ〜」


 テーブルの上にグテ〜と倒れる神無月。


「まだ高校生活は始まったばかりなんだから、焦らなくてもいいんじゃないか?」

「…………東山君は」

「俺?」

「東山君は彼女いるの?」

「…………聞くな」


 涙がポロりと溢れる。もちろん人生十五年間、一度たりとて御座いませんッッッ!!



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