第33話 倭人くんがいれば大丈夫

 ギリギリだった。マジでやばかった。


 俺たちは何とか生き延びてマッドサイエンティストの館を脱出できた。


 しかし決して無傷ではない。美琴と昂ノ月さんは途中で気を失ってしまった。置き去りには出来ないから、両脇に抱え、出てくるゾンビ共を何とか交わし、くらがりの館を脇目も触れずにひたすら走った。


 最高に出てきたスモークガンを持つゾンビは手強かった。せっかく突き放したゾンビ共が執拗についてきていた。出口を目前にして捕まるわけにはいかなかった。


 アトラクションにしては異様な殺気もひしひしと伝わってくる。俺は腹をくくり、美琴と昂ノ月さんを抱えたまま旋風脚でスモークガンを弾き飛ばした。


 スモークガンを持っていたゾンビが呆然とする横を走り抜け、何とか脱出する事が出来たのだった。


 俺の勝因は入館前にトイレに行っていた事だ。もしトイレに行っていなかったら、絶望的な状況になっていただろう。



 美琴と昂ノ月さんを人目の少ないベンチに寝かせていた。まさかお化け屋敷で気絶するとは当人たちも思っていなかっただろう。


「あれ?」

「大丈夫か?」


 美琴が昂ノ月さんより先に目を覚ました。


「なんで寝てるんだっけ?」


 先ほどのお化け屋敷での話をすると、美琴は急に顔を青ざめさせて、「あそこはもう絶対に行かないよ!」と言っているが、俺だって二度とお断りだ。


 そして昂ノ月さんも目を覚ましたので、休憩がてらにフードコートへと足を運んだ。



「スミマセンでした」


 顔を紅潮させて、もう何度目かのスミマセンをする昂ノ月さん。


「そんなに謝らなくていいですよ」

「そうだよ春香さん。倭人くんがいれば大丈夫なんだから!」

「ふふふ、そうですね。東山様がいれば大丈夫ですね」


 俺の瞳を真っ直ぐな眼差しで見つめる昂ノ月さん。俺は恥ずかしくてストローに視線を移してコーラを口に含んだ。


「そろそろ帰ってもいいんじゃないか?」


 ゴールデンウィークって事もあり、アトラクションはニ時間待ちばかりだ。乗れてもあと1つだろう。


「うん。わたしも疲れたから帰ってもいいかなぁ」

「えっ!?」


 おや? 昂ノ月さんは何故か驚いている。何でだ?


「す、すみません。まさかお嬢様が帰るという懸命なご判断をするとは思いもよらなかったもので」


 ははは、まあいつもの美琴なら帰るとかは言わないだろうな。さっきのお化け屋敷がよほど堪えたのだろう。


「ただ、こちらのチケットが有りまして……」


 昂ノ月さんはスマホを取り出して、ネットチケットの画面を見せてくれた。


「「ヨイデハないか時間指定チケット?」」

「はい。午後からは混むかと思って二枚ほど時間指定チケットを確保しておきました」


 時間指定チケットとは、指定された時間に行けば長蛇の列に並ばずに乗れる有料チケットだ。


「……諦めすか」


 俺がそう言うと、「そうですね」と昂ノ月さんは俺の意見に同意してくれた。


「えぇぇぇ、勿体ないよ!」


 当然の如く否定してきたのは美琴だった。


 

「何で俺と昂ノ月さんが、これに乗っているんですかね」

「…………」


 昂ノ月さんは真っ青な顔で声すら出せないようで、ゆっくりと上昇しているコースターから見える青い山々を見ていた。このコースターは進行方向とは逆向きに座るので、遠くの山までよく見える。


 いや、俺も青い顔をしているに違いない。顔に血の気が無いのが感覚で分かる。


 なぜこんな事になっているかと言うと、美琴が疲れて乗りたくないと階段を上がる直前に言い出したからだ。

 そして美琴は昂ノ月さんを連れてくると、俺と昂ノ月さんは後ろからきた人に押されるように階段を上がってしまったのだ。


 さて、このヨイデハないかは今までのコースターと違って足元が無い。いわゆる足ブラコースターで、この後にグルグルと捻りながら高速でアップダウンを繰り返す、国内最強クラスの絶叫マシンだ。


 後ろ向きでも分かる、ふわりとゆっくり落ちた後に軽くアップする。そして急落下からの地獄スパイラルが始まった。


「「ギュあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

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