第40話 綺麗な背中

「綺麗だ……」


 ゴクリと生唾を飲み込み、俺は美琴と昂ノ月さんの水着姿を見ていた。俺のシンプルなサーフパンツとは違い、二人はお揃いの、胸元に大きなフリルが特徴的な水色の水着を着ている。


 何故五月に水着かというと、箱根にある温水施設『湯ぅとピア』に来ていたからだ。もちろん水着なんかは持ち合わせていなかったからレンタルだ。


「いま、綺麗って言ったよね!」

「ああ、昂ノ月さんがな」

「えぇ〜、わたしはッ!」


 美琴が俺に一歩近付いて、ぷくぅと頬を膨らませて俺を見上げるように睨んでいる。


 この角度で美琴を見下ろすと、否応なしに胸の谷間に目がいってしまう。俺は胸元から視線をはずして天井に目を動かした。


「み、美琴は……可愛いいよ」


 学年一の可愛い女子と評判の美琴だ。水着姿が可愛くないはずがなく、近くにいるお兄ちゃんやおっちゃん達も、美琴や昂ノ月さんをチラチラと見ている。


 「えへへ」と俺の右腕に抱きついてきた。


「オ、オイ!?」

「ん?」

「ん、じゃねえよ! は、離れなさい!」

「なんで?」


 クッ、俺の右腕が胸の谷間に挟まってんだよ!


「早く行こっ!」


 俺の右腕に絡まったまま歩きだす美琴。昂ノ月さんを見ると苦笑いをしていた。


 こいつ、彼でもない男にこんな事して大丈夫か?



 『湯ぅとピア』は水着で入るプールと色々なお風呂がある施設だ。時間的には午前中と決めていて、午後には帰路につく予定になっている。別館に温泉もあるので、帰り際に入ってから帰る事になっている。


「コーラ風呂だってよ!」


 コーラ? めっちゃべとべとしそうな感じだ。美琴に引っ張られてコーラ風呂に入る。結構、人が多くて詰め詰めだ。


「昂ノ月さん?」

「はい」

「何故に俺の隣なんですか?」

「混雑していますので」


 コーラ風呂はさほど広くなく、美琴の隣にはおばちゃん達が陣取っていた。確かに入る場所が無いのは分かるが、美琴と昂ノ月さんに挟まれて、なんか変な感じで、ぬるいお風呂なのにノボセそうになる。



「や、倭人くん……」

「どうした?」

「ブラの紐が解けちゃった」


 コーラ風呂よりも混んでいるワイン風呂に入っていた。昂ノ月さんはお手洗いにいっていて、ここにはいない今、美琴がとんでもない事になってしまった。


「じ、自分でなんとかしなさい!」

「無理!」

「昂ノ月さんが時期に戻ってくるから待ってろ」

「おトイレに行きたい……」

「子供かお前は!」

「倭人くん、結んで」


 マジか! 水着の紐ってどうなってんだ? し、知らないぞ俺は?


「は、早くぅ」

「お、おう」


 美琴が胸のブラを両手で抑えたまま、俺に背中を向ける。両脇の下に水色の紐がお湯の中に漂っていた。


 その紐を手に取り、背中にそって軽く引っ張る。

 美琴の白い背中がめっちゃめっちゃ綺麗で、心臓がドキドキしてきた。


 水着の紐を結ぶ手が震えている。水着とはいえブラだ。人生初ブラだ。女の子のブラをつけるだけで、なんでこんなにエロく感じてしまうのだろうか?


「出来たぁ?」

「ちょ、ちょっと待て」


 美琴の背中に振れる手が心地よく、なんかエロい。蝶々結きでいいのか?


 なんとか結き終えると美琴は速攻でワイン風呂から出ていった。その背中を見送りながらも、俺の心臓はまだバクバクしている。


「美琴の背中……綺麗だったな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る