第40話 綺麗な背中
「綺麗だ……」
ゴクリと生唾を飲み込み、俺は美琴と昂ノ月さんの水着姿を見ていた。俺のシンプルなサーフパンツとは違い、二人はお揃いの、胸元に大きなフリルが特徴的な水色の水着を着ている。
何故五月に水着かというと、箱根にある温水施設『湯ぅとピア』に来ていたからだ。もちろん水着なんかは持ち合わせていなかったからレンタルだ。
「いま、綺麗って言ったよね!」
「ああ、昂ノ月さんがな」
「えぇ〜、わたしはッ!」
美琴が俺に一歩近付いて、ぷくぅと頬を膨らませて俺を見上げるように睨んでいる。
この角度で美琴を見下ろすと、否応なしに胸の谷間に目がいってしまう。俺は胸元から視線をはずして天井に目を動かした。
「み、美琴は……可愛いいよ」
学年一の可愛い女子と評判の美琴だ。水着姿が可愛くないはずがなく、近くにいるお兄ちゃんやおっちゃん達も、美琴や昂ノ月さんをチラチラと見ている。
「えへへ」と俺の右腕に抱きついてきた。
「オ、オイ!?」
「ん?」
「ん、じゃねえよ! は、離れなさい!」
「なんで?」
クッ、俺の右腕が胸の谷間に挟まってんだよ!
「早く行こっ!」
俺の右腕に絡まったまま歩きだす美琴。昂ノ月さんを見ると苦笑いをしていた。
こいつ、彼でもない男にこんな事して大丈夫か?
◆
『湯ぅとピア』は水着で入るプールと色々なお風呂がある施設だ。時間的には午前中と決めていて、午後には帰路につく予定になっている。別館に温泉もあるので、帰り際に入ってから帰る事になっている。
「コーラ風呂だってよ!」
コーラ? めっちゃべとべとしそうな感じだ。美琴に引っ張られてコーラ風呂に入る。結構、人が多くて詰め詰めだ。
「昂ノ月さん?」
「はい」
「何故に俺の隣なんですか?」
「混雑していますので」
コーラ風呂はさほど広くなく、美琴の隣にはおばちゃん達が陣取っていた。確かに入る場所が無いのは分かるが、美琴と昂ノ月さんに挟まれて、なんか変な感じで、ぬるいお風呂なのにノボセそうになる。
◆
「や、倭人くん……」
「どうした?」
「ブラの紐が解けちゃった」
コーラ風呂よりも混んでいるワイン風呂に入っていた。昂ノ月さんはお手洗いにいっていて、ここにはいない今、美琴がとんでもない事になってしまった。
「じ、自分でなんとかしなさい!」
「無理!」
「昂ノ月さんが時期に戻ってくるから待ってろ」
「おトイレに行きたい……」
「子供かお前は!」
「倭人くん、結んで」
マジか! 水着の紐ってどうなってんだ? し、知らないぞ俺は?
「は、早くぅ」
「お、おう」
美琴が胸のブラを両手で抑えたまま、俺に背中を向ける。両脇の下に水色の紐がお湯の中に漂っていた。
その紐を手に取り、背中にそって軽く引っ張る。
美琴の白い背中がめっちゃめっちゃ綺麗で、心臓がドキドキしてきた。
水着の紐を結ぶ手が震えている。水着とはいえブラだ。人生初ブラだ。女の子のブラをつけるだけで、なんでこんなにエロく感じてしまうのだろうか?
「出来たぁ?」
「ちょ、ちょっと待て」
美琴の背中に振れる手が心地よく、なんかエロい。蝶々結きでいいのか?
なんとか結き終えると美琴は速攻でワイン風呂から出ていった。その背中を見送りながらも、俺の心臓はまだバクバクしている。
「美琴の背中……綺麗だったな」
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