学校で人気の美少女を生ごみの日に捨てたいんだが 〜東山君、それ酷くないですか!?うるせえ、だったら毎日風呂入れっ、この悪臭女子ッ!!

花咲一樹

第1話 隣の席の美少女


 体調が悪い。

 

 気持ちが悪い。


 俺の左手側の窓際の席を見れば、学年で一番可愛いと言われる美少女がいる。


 少しだけ開いた窓からは、春の優しい風に乗って香水の香りが漂ってくる。


「……今日はいつにも増して香水がきついな」


 活性炭入りマスクをしていても今日は駄目だ。数学の田中先生の声もろくに耳に入ってこない。


 この春、上見坂高校に入学してまだ十日。はっきり言って毎日が気持ち悪い。


 気持ち悪い原因はニつある。一つは俺の住むワンルームマンションの腐臭だ。隣の部屋から漂う腐臭は半端ない。


 大家さんも何度か注意しているようだが、全く功を奏していない。俺は隣の奴の顔を見た事はないが、ふてぶてしい腐臭ニートが住んでいるに違いない。


 そしてもう一つは、窓側に座る隣の席の女だ。名前を神無月美琴。綺麗な名前に負けない美少女で、登校初日にコイツが俺の隣の席で、めちゃめちゃ心を踊らせてトキメイていた頃もありました。


 神無月はアイドル顔負けの美少女だ。長い髪にくりっとしたアーモンドアイ、小さな顔に似合った小さな口が愛らしい。


 このクラスになった男子生徒は自らの運命に歓喜し、一週間を待たずして奈落の底にその運命は落ちていった。


 何故ならば、神無月は入学三日目で同じ一年にして女子生徒人気ナンバー1の轟淳弥と付き合い始めたからだ。


 まあ、俺は入学初日で神無月には絶望したけどね。


 神無月は俺の部屋に臭う対局の匂いを強烈に放っている。どんな香水かは知らないが、苺と桃とパイナップルのフルーツミックスな香りに、石鹸系やウッド系等の香りが混ざり、香りの宝箱を引っくり返してごみ溜めに捨てた様な臭いがする。


 ただしコレは俺の感想であり、神無月の匂いに鼻を大きくして深呼吸している馬鹿野郎は一人やニ人ではない。


 なにはともあれ、隣の席になった時の俺のトキメキを返して欲しい。


 てか、今日はもう無理だ。気持ち悪くて吐き気もする。登校ニ日目以降から愛用している活性炭入りマスクをしていても、朝の強烈な腐臭と、神無月の強烈な香水の香りが、俺の鼻の中で最悪のカクテルを作り、俺のメンタルを削りまくっていた。


「先生、気持ち悪いんで帰ります」


 田中先生に断りを入れて席を立つ。隣の神無月や周りの生徒が俺に注目するが、クラスでは対して目立つ存在ではない俺が教室を出れば、授業は普通に再開された。


 さて、ワンルームマンションの部屋に帰れば、あの腐臭が待っている。

 活性炭マスクを外し校門を出た俺は仕方なく行きつけのカラオケボックスに向かった。



 フリータイムで入店したカラオケボックスで、少し昼寝して、昼飯を食って、ヒトカラしていたら夕方になった。


 部屋に戻って飯を食っても、腐臭でクソ不味くなるだけなので、夕食もカラオケボックスで食べて、ヒトカラしたり、スマホをいじったりして、ワンルームマンションに帰った時には夜の八時を過ぎていた。


「これじゃ只のサボりじゃねえか」


 カラオケボックスはタバコ禁止になったお陰で室内の空気は悪くない。てか、俺の部屋よりも百万倍綺麗だ。


 二階に上がる階段を上がりながら、段々とムカムカしてきた。俺が体調悪いのも、サボりみたいな事をしているのも、全て隣の腐臭のせいだ。腐臭部屋の前で、強烈な腐臭が俺の鼻を襲った時に俺の心が爆破した。


「ちょっとお隣さん」


 俺は心の怒りを抑えて、俺の部屋と同じ形のドアをそっと叩き、呼び鈴を鳴らす。


「お隣さん、いますよね」


 部屋の灯りはついているが、扉の向こうに反応がない事から、俺のイライラ度が上がっていく。


(早く出やがれデブニート!)


 俺は更に呼び鈴を三回連打した。


「おい! 出て……」


 ドアを大きく叩こうとしたら、ドアノブがガチャリと回った。


「なんですか、貴方は!」


 ドアを開けながら怒った声の女性の声に意表を突かれた。俺の勝手なイメージが、典型的なデブニートが居座っていると思っていたからだ。


 少しドアが開いてチラッと見える長い黒髪。更に開放されたドアから、グワッと大量に放たれ腐臭に思わず顔を背ける。


 カラオケボックスでクリアーになった鼻孔を腐臭が襲い、昼間の気持ち悪さを思い出した俺は、腹の中から込み上げる物を抑え込むように、両手で口を抑えた。


「なんですかぁ〜、こんな夜分に失礼ですよぉ〜」


 開け放たれたドアから俺を半目で睨み付ける若い女性。首元がダラダラに伸びた部屋着がだらし無さを引き立てる。


 失礼なのはテメエの部屋の腐臭だよ!

 生ゴミで捨てるぞゴルァ!!


 そう言おうとして、若い女性を睨み付けたんだが。


「あれ?」

「あっ!?」


「神無月ッ!?」

東山ひがしやま君ッ!?」


 隣の部屋の腐臭隣人は、隣の席の香臭女子だった。


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