049 あなたが誰かが分かった

「これ以上、クシーを誘惑しないで!」まひるが叫んだ。「悪魔!」

 あははははは、とクルーナーが高笑いをした。「これは傑作ね。さあ、クシー。恐れることはないはずよ」

 クシーが空中をクルーナーの方へ移動し始めた。

「クシー!」まひるが手を伸ばす。

「クシー、待て」俺は言った。「このままメリスマを進展させて、すぐに奴を消滅させろ」

「大丈夫」クシーが振り返る。「話を聞くだけ」

「クシー!」

「心配ない。私のメリスマは決して破れない」

 クシーはクルーナーを閉じ込めている立方体の手前まで到達した。

 クルーナーがクシーに語りかけている。

「これまであなたたちが戦って、消滅させてきたものたち、それを作り上げたのも、ほかでもない、あなたたち自身なのよ。あなたも心のどこかでは、おかしいと思っているはずよ。その疑問を、今、私が解決してあげられるわ。さあ」

 クルーナーが腕を伸ばし、手のひらを立方体に張り付けた。

「クシー、よせ!」

 俺の言葉はもう、クシーには届かなかった。

 クシーが手を伸ばし、クルーナーの手のひらに、自分の手のひらを重ねた。

 こちらに背を向けているため、クシーの表情は見えなかったが、クシーは明らかに動揺している。

「あなたは」クシーの言葉はそこで途切れた。クシーの体が揺れる。

「私の正体が分かった?」クルーナーが言った。

「分かった」クシーがうなずいた。「あなたが誰かが分かった」

「あなたは私に逆らえない」クルーナーが言った。

「私はあなたに逆らえない」クシーが答えた。

 俺たちはいっせいにクシーのもとへと動いた。

 突如、俺たちの前に半透明の壁が出現する。

「ふぎゃっ」と、しんちゃんが壁に激突した。

 クシーは、自分とクルーナーの外側に、巨大な立方体を出現させていた。

 魔法少女たちは、おのおのの武器で壁を破壊しようとするが、びくともしない。

 クルーナーがクシーに告げた。

「あなたの責務から、あなたを解放してほしいですか」

「私の責務から、私を解放してほしい」クシーが答えた。

「分かりました」クルーナーが言った。「あなたを解放してあげます」

 クルーナーを閉じ込めていた立方体が消滅した。

 クシーとクルーナーは手を握り合った状態から、体を近づけていき、やがてクシーの体はクルーナーの体と重なった。

 クルーナーが目を閉じる。

 クルーナーの体が、まるで水銀のように波打ち、クシーの体をゆっくりと飲み込んでいく。

「クシー!」まひるが叫ぶ。

 二人の体は完全に一体化した。

 クルーナー=クシーは閉じていた目を開いた。

 瞳が銀色に光る。

 クルーナー=クシーが言った。

「おかえりなさい」

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