059 Hope you guessed my name
「たぶん、イミからも聞けることなのだろうけど」俺は言った。「BBの口から説明が聞きたい。イミは、クルーナーのことを、カ・ムの御使いと呼んだ。そして、カ・ムとは、創造者、つまり、この世界を創ったもののことだと。それは事実なのか」
「事実」BBは、唇に手を当てた。「事実、ね。難しい言葉だわね。いえ、ごめんなさい、ええとそうね。確かに、クルーナーは、この世界を創ったものが遣わしている。それは間違いないわ」
「なぜ」と、ひみか。「目的は何なの」
「それはまさに、神のみぞ知る、ね」と、BBは肩をすくめた。
「創造者は、この世界を壊そうとしているの?」と、明日香。
「この世界」BBは再び唇に手を当てた。「いいえ。おそらく、創造者が排除したいと思っているのは、あなたたち。人間よ」
部屋に沈黙が落ちた。
「BB」俺は言った。「この世界は、何なんだ」
あすか、あかね、まひるが首をかしげた。
「この世界は――この世界やろ」と、あかね。
「うん。だよね」と、明日香。「宇宙があって」
「地球があって」と、まひる。
「BB、そうなのか?」俺は、BBを見た。「俺はもう、いろんなことが信じられなくなりつつあるんだが」
「いいえ」BBは首を振った。「宇宙はないわ」
「へ?」「ど、どういうことっすか」と、くろちゃん、しんちゃん。
「本来、宇宙は存在しない。あなたたちが、自身の存在にとってその方が都合がいいから、そう認識されているだけで、実際に宇宙というものは存在しない。当然のことながら、太陽系や地球も存在しない」
「それって」誠くんが言った。「世界五分前仮説みたいなものですか」
どうやら誠くんは、SF好きみたいだ。
「ううう」美穂が頭を抱えた。「誠がまたよう分からんことを言い始めたちゃ」
「その考え方に近いけれど、これは仮設ではない。いわば、真理よ。ちなみに、時間も存在しないわ」
「い、いやでも」と、あかね。「私ら、ここに、こうやって、おるやん。確かに、この部屋は時間の流れから隔絶されているらしいけど、私ら存在して、時間も経って、年取って、死んでいくやん。それって、違うの?」
「違わない」と、BB。「あなたたちにとっては」
「でも、BBや、創造者にとっては、違うってこと?」と、明日香。
「ええ」BBはうなずく。「そうね。とにかく、あなたたちは、非常に特異な存在なの。あなたたちが生み出されてから、その存続の是非に関して、様々な意見が出て、様々なことが起こった。その結果、創造者はクルーナーを遣わすことにしたの」
「この世界がどうあろうと、私たちはこうやって存在している」と、ひみか。「私たちは、どうすればいいの。これからもクルーナーと戦い続けるしかないの?」
「そうね」BBは、目を閉じた。「それしか、道はないわ」
「それで」ひみかは言った。「私たちが勝利する可能性はあるの?」
「ある」BBは目を開いた。「そのために、私はここにいる」
「では、私がやることは、これまでと同じね」と、ひみか。
「ふむ」イミはひみかを見た。「おぬしはなかなかに肝が据わっておるな」
「ワン」と、キジ。「さすがは元魔法少女、ということですかな、ワン」
「ありがと」と、ひみかは言って、俺を見た。「どうやったら勝てるのか、何をもって勝利なのか分からないけど。これは、作戦を立て直す必要があるわね」
「ああ」俺はうなずいた。またいろいろと、やっかいなことが増えそうだ。
「BB、質問があります」クシーが言った。
俺も、BBへの大事な質問が残っていた。
「何かしら」BBは首を傾げた。
「あなたは、何ですか」と、クシーは尋ねた。「あなたも、創造者なのですか」
それは俺が聞こうと思っていた内容とまったく同じだった。
「俺も知りたい。BB、お前は誰なんだ」
「まず、始めに」
BBは人差し指を立てた。
「私は、あなたたちにお会いできて光栄だったわ」
そう言って、BBは膝の上で手のひらを合わせた。
「さて、私の名前に見当をつけてもらえたら嬉しいのだけれど」
クシーが目を大きく開いた。それは、俺がこれまでに見たクシーの表情の変化の中で、最も大きなものだった。
「Hope you guessed my name」クシーがつぶやいた。「そうか、あなたは」
「私の本当の名前は――」BBは言い淀んだ。「うーん。そうね、いろんな名前で呼ばれていたけど、私としては、こう呼んでほしいわね。ルキフェル、と」
「ルキフェル?」と、俺。
「それってもしかして」と、くろちゃん。「ルシファー……」
「ええ」BBはうなずいた。「でも、今の日本だと、こう呼ぶのが最も一般的、かつ、分かりやすいでしょうね」
BBの微笑が二割増しになった。
「悪魔、と」
第一部 完
魔法少女の犬 Han Lu @Han_Lu_Han
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