046 あなたは誰?

 視界の表示によると、そのクルーナーは全長四メートルとなっている。

 人の形をしているが、実際の人間よりは大きい。そのせいで、距離感がつかめない。

 さらに、その外観――クシーと同じ姿――が、俺たちを戸惑わせていた。

「BB」と、俺。「どうなってる」

「出現したときは球状だった」と、BB。「あなたたちが到着してから変形が始まったの」

 顔は今のクシーと全く同じ。ただ、表情と呼べるものはない。体には何もまとっていないように見えるが、裸体というわけではなく、表面が滑らかな彫像のようだ。全身深いグレーの色に覆われている。

「人型のクルーナーって、前例はあるのか」

「私が知る限りないわ」

「クシー」と、まひるが心配そうな表情でクシーを見た。

 クシーは表情を変えず、じっとクルーナーを見つめている。

「攻撃します」と、クシーがすっと前方へ移動する。

「待て、様子を――」

 突然、クルーナーの腕が伸びて、クシーの手首をつかんだ。

 あっという間に、腕が縮み、クシーはクルーナーのもとへ引き寄せられた。

 両手を左右に広げられ、クシーはクルーナーのすぐ目の前で、十字架に張り付けられたような状態となっている。

「あなたは誰?」と、クシー。

「BB!」俺は叫んだ。「音声を」

 視界に『インプット クシー』の文字が表示され、クシーに聞こえている音声が流れてきた。

「私は、ジェニファー・ウォーカー」クルーナーが喋った。「あなたのオリジナルよ」

 その名前は確かに、クシーというアバターのオリジナルである、アメリカの魔法少女の名前だった。クシーの報告書に記載されていた名前だった。

「BB、ジェニファーの遺体はどうなったんだ」俺はBBに聞いた。

「未回収よ」と、BB。

「つまり」

「ええ。おそらく、あのクルーナーはジェニファーの遺体を取り込んでいる」

 とてつもなく嫌な予感しかしない。

「クシー!」まひるが叫ぶ。「離れて!」

 まひるが飛び出そうとする。

 俺はもうまひるの行動が読めているので、まひるの制服の上着の襟を咥えた。

 ぐえ、という声を出して、まひるの上半身は止まった。

「な、なにするんですかっ」まひるが俺を振り返る。

「はやまるな」と、まだ上着を咥えながら、俺は言った。「相手の力がまったく分かってないんだ」

「でも」

 俺たちがそんなやりとりしているあいだに、クシーは攻撃を開始した。

「アアーーーー」

 ぱぱぱん、と、クルーナーの体に三か所、大きな穴が開いた。

 クシーは敵の腕を振りほどき、後方へ逃れた。

 だが、残ったクルーナーの体はすぐさま一か所に集まり、いったん球状になってから、再びクシー=ジェニファー・ウォーカーの姿になった。大きさもほとんどさっきと変わっていない。

「コアがない」まひるが言った。

 確かに、俺の視界にも、いつもなら表示されるクルーナーのコアが表示されてない。どこかに、本体がいるのか。

「コアは」俺たちのすぐ前まで後退してきたクシーが言った。「コアはたぶん――」

「ふふふふふ」

 俺たちの耳に、クルーナーの笑い声が届いた。どうやら、奴は完全に俺たちのシステムとのリンクを果たしたみたいだ。

 クルーナーは、クシーを指さした。

「そうよ。私のコアは、あなた」

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