033 友だちと一緒にいます
翌日の夜、七時半頃、俺は会社からまひるにショートメールを送った。
水原さんは直帰、ほかのメンバーも今日は出張者が多くて、課で残っているのは俺ひとりだった。
電話してもいいか、という俺のメッセージに、大丈夫です、というまひるからの返事が届いた。俺は、電話をかけた。
「はい」と、すぐにまひるが出た。
「山田です」と、俺。
「はい」と、まひる。
やっぱり、まひるの声は固い。かく言う俺も固いな。
よく考えたら、俺、まひるとこうやって電話で話するの初めてなんだよな。
「昨日、どうだった? 学校。クシーと」
「はい。大丈夫です。私たち、同じクラスでした。最初はみんなびっくりしてましたけど、今日は普通で、私の友だちが話しかけてきてくれたりしました。なので、だ、大丈夫ですっ」
まひるに気合が入るほど、こちらは心配になるのだが。もちろんそんなことは言わないけど。と、耳元のスピーカーからかすかに女の子の話し声が聞こえてきた。
「あ、ちょっと待ってください」
がさがさという音のあと、「おっさん元気かー」と、あかねの声が聞こえてきた。
「なんだ、あかねと一緒か」
「スピーカーにしますね」と、まひる。
「山田さん、こんばんは」と、明日香の声。
「なんだ、みんないるのか。っていうか、そこ、どこ?」
「クシーの家です」と、まひる。
「え、そうなの?」
「山田さんは、おうちですか?」と、明日香。
「まだ会社。っていうかいつの間に」
「おっさんが電話しよっかなー、どうしよっかなーって思ってる間に、事態は動いとんねん」
俺は思わず、椅子からずり落ちそうになった。もしかして、ひみかがあかねに連絡したのか、と一瞬思ったが、たぶんそれはないだろう。
「事件は会議室やなくて、現場で起こってるんやで」
「そんな古いの、よく知ってるな」
「おかんがファンやったから、ってそんなことはええねん。おっさん、今からこっち来れる?」
「それ、いいわね」と明日香。
「え、ちょっと、あかねさん」と、まひるの声。
「ちょうどええやん。うちら、もう、結構クッシーと仲良うなったで。クッシー、クッシー」と、あかねがクシーを呼んでいる。「なんか言うて」
「クシーです」と、クシーの声が聞こえた。「私は今日、友だちができました。まひると、あかねと、明日香です。私は今、友だちと一緒にいます」
「そうか」俺は言った。「よかったな、クシー」
「はい。みんなに出会えたことを神様に感謝しています。みんなにも祝福がありますように」
「ありがとー」「おおきに」「ありがとう、クシー」と、みんなが口々に言っている。
「そんじゃあ――」と、いいかけたあかねの声が、BBの声に遮られた。
「みんな、一緒ね」視界が省エネモードの状態に変わり、『SOUND ONLY』の表示が浮かぶ。「クルーナー出現よ」
「最近、出現のスパンが短くない?」と、明日香。すでにスマートフォンの通話は切って、魔法少女のシステム上の通信に切り替えている。
「場所は?」俺の質問に、「埼玉上空」とBB。
「どうする。ここから近いけど」と、俺。
「エリア的にはまひるとクシーやけど、今回、クシーの初陣やから、みんなで行こう」
「あかねの意見に賛成」と、明日香。「いいかな、BB」
「問題ないわ」
「ついでや、美穂も呼ぼう」
「連絡しておくわ」と、BB。「じゃあ、山田さん、あとはよろしく」
「くろちゃん、いける?」
「しんちゃん、出番やでー」
と、二人がそれぞれのワンコちゃんに連絡を取っている。
「まひる。クシーを頼む」
俺の呼びかけに、まひるが答える。
「分かりました。現場に一緒に行きます」
「よし、行こう」
「はい。山田さん、来てください!」
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