034 メタ的発言はいいから

 そこは、一面畑が広がる場所だった。電信柱に付けられた灯りがぽつりぽつりと、あたりを照らしている。

 すでに四人の魔法少女と、二匹のワンコちゃんが到着して、あぜ道に立っている。俺はまひると手をつないで、犬の姿になった。

「あれね」

 明日香が指をさす。少し離れた場所に、打ち捨てられた建物がぽつんと立っている。どうやら古いボーリング場のようだ。その上空に丸い物体が浮かんでいる。

「あそこの屋上に移動しよう」と、くろちゃん。

 俺たちは飛行して、ボーリング場の屋上に降り立った。

「あれ?」黒い帯状のものがぐるぐると球状に巻かれたそのクルーナーに、俺は見覚えがあった。「あいつ、前に逃げてったやつじゃないか」

「ですね」とまひる。

「なんや、知り合いかいな」

「いや知り合いっていうか」俺はあかねに説明した。「俺がまひると初めて会ったときに戦ったやつなんだよ。そのときは二体いて、一体は倒したんだけど、一体は逃げて行った」

「たまにいるのよ、ペアで出てくるやつ」

「あれ、面倒なんだよね」

 と、明日香とくろちゃん。

「け、契約していきなり一体倒したんすか、す、すごいっすね」

 と言うしんちゃんに、「え、そうなの?」と、俺。

「まあ、山田さんはいろんな意味で規格外だから」明日香が笑った。

「それにしても」とあかねがクルーナーを見上げる。「同じ敵の再出現って、作者が手抜きしてるパターンやん」

「そういうメタ的発言はいいから」と、明日香。「どうする、作戦」

「そうやな」あかねは、クシーを見た。「クッシー、いける?」

「イエス」クシーはうなずいた。「いける」

「戦闘自体は初めてじゃないんだよね」と明日香は俺を見た。

「ああ」俺は報告書の内容を思い返しながら、答える。クシーとして再生してから、彼女はアメリカで数回実戦を経験している。「向こうで、何度か経験してる」

 そして、その能力は、とんでもないものだった。だから現在、クシーの戦闘能力には一定の制限がかけられている。

「みなさん、下がっていてください」クシーが数歩前に出た。

「ワンコちゃんが必要ないって、便利よね」と、明日香。

「ああ」そうなのだ。クシーはワンコちゃんからの魔力供給がなくても、自力で魔力を集めることができる。それは彼女のような存在には必須の能力だった。

 クシーの体がふわりと浮き上がり、クルーナーと同じ高度に達した。

 クルーナーがクシーを感知し、数本の帯がゆらゆらと揺れながら、クシーに狙いを定めていく。

 クシーはおもむろに口を開いた。

「アアアアアアアアアー」

 クシーの口から発せられたのは、ボーカリストがよく発声練習をするときの、簡単な音階だった。

 クルーナーの動きが止まった。

「アーーーーーーーーーーーー」

 と、クシーは声を出した。

 パシン、とクルーナーの帯の一本が弾け飛んだ。

「アーーーーーーアーーーーーーー」

 クシーが声を発するたびに、帯が消滅していく。

 外側の帯がほどけ、うねうねと動きながらクシーに狙いをつける。その数およそ二十本。

 すうっ、と俺の隣の明日香が腰を落とす。いつの間にか手に槍を持っている。まひるもスティックを出現させ、いつでも飛び出せるように構えた。あかねは腕を組んで、じっとクシーを見つめている。

「ふうーっ」と、クシーが大きく息を吐いて一気に吸った。「オオオオーーーウェーーーーーーーエーーーーーーーーーー」

 それまでの単調な音ではなく、やや複雑な音階を伴った音がクシーの口から発せられた。

「オオオオウェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーエエエエイ」

 いっせいに襲いかかってきた帯たちがばらばらに千切れ飛んで行った。

「ハアアアアーーーーーーーーーーーーー」

 さらにクルーナーの本体が無数の破片となって吹き飛ばされた。

「すごい」まひるがつぶやいた。

「やったのか」

 俺の言葉に、くろちゃんが答える。

「いや、コアがない」

 上空に千切れ飛んで散らばったクルーナーの破片が急速に再生し、数十体のクルーナーが出現した。

「この数」明日香の声に、くろちゃんの声がかぶさる。「みんな、回避!」

 俺たちはいっせいに上空に飛んだ。

 直後、クルーナーたちが放った膨大な数の帯が屋上に突き刺さり、ボーリング場だった建物はガラガラと崩れ落ちていった。

「うわー」「や、やばかったっす」「くろちゃんありがとう」と、みんな。これ、またBBが事後処理に苦労しそうだな。

「どこかにコアのある本体がいるはず」と、くろちゃん。

「でも、あいつらもなんとかしないと」と、明日香があかねを見る。

「本体はもうすぐ到着する助っ人がなんとかする。それまでしのげばええんやけど、次にあれが来たら、ちょっとヤバいな。明日香、防御の用意」

「分かった。でも全部防ぎきれるかどうか」

「残りはうちが――」

「いや」俺は上空を見上げた。クシーは俺たちよりも少し上に滞空している。「その前に、クシーがせん滅する。BB!」

「山田さん」BBからの回線が開き、俺に告げる。「これ以降、クシーの行動規制解除権限をあなたに移譲します」

「分かった」

 視界に表示されている『権限移譲』が『承認』に変わる。

「クシー、制限解除だ」

「了解。第一段階限定解除」クシーが言った。「ハラー!」

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