053 どっちやねん!

「よし」イミが目を閉じて、言った。「つかんだ」

 赤い球はイミの盾でホールドされた。

「みんな!」明日香の声で、俺たちは目を閉じて、念じた。あの下にいる大切な人たちのことを。突然、俺の手足が猛烈な痛みに襲われた。歯を食いしばる俺に、まひるがささやいた。

「大丈夫ですか」

「ああ。俺のことは気にせず、念じろ」

 まひるは再び目を閉じた。

 痛みに、気が遠くなりそうだ。

 俺はそうすんなりと、まひるたちと同じにはさせてもらえないらしいな。

 でも、今回も俺は目をつぶるよ。

 仕方ない。

 あの下にはまひるの両親や友達もいるんだからな。

 俺はあのとき、俺を背後から抱きしめた女のことを思った。

 クルーナー。

 また今度もお預けだな。

 俺は心を無にして、痛みに耐え続けた。

「球が変化しておるぞ」と、イミ。「もう少しじゃ、がんばれ!」

 目を開けると、ぼんやりと俺たちの体が青く発光している。

「よし!」とイミが言った直後、俺たちの体に静電気のような衝撃が走り、イミの体からみんなが弾け飛んだ。

「何?」「どうしたの」「球は」みんなが口々にイミに問いかける。

「盾の力が切れた」と、イミ。

「それで、無力化は?」明日香が、イミの手をつかんだ。

「できた――と、思う」

「どっちやねん!」と、あかねの突っ込み。

「見て!」くろちゃんの言葉に、俺たちは下を見た。

 花びらの薄い色の向こう、地上の夜の世界に、小さな青い光がともり、それがどんどん広がっていっている。

「なんだろう、あれ」と、誠くん。

「イミ、あれは」

 俺の問いに、イミは首を振った。

「ワレにも分からん」

「BB!」と、俺。「そっちは、地上はどうなってる」

「それが」珍しく、BBが口ごもった。「あなたたちが落とした球の影響が」

「え!」みんながいっせいに声を上げた。 

「待って。悪い影響じゃないの。なんて言っていいか。とにかく、心配しないで。こっちは大丈夫だから」

 と、要領の得ないBBとの通信の途中で、イミが言った。

「も、戻ってきた」

 突如、俺たちの目の前に巨大な青い球が出現した。おそらく、下界から急速に上昇してきたのだろう。

「な、なんやこれ」とあかね。

「さっきの球が戻ってきたんじゃよ。今度は正のエネルギーを大量に貯めてな」

 イミはクルーナー=クシーを見上げた。

 クルーナー=クシーの体から出た血で、再び赤い球が形成されつつある。

「おぬし」イミが俺を見た。「その手足は、完全にカ・ムに持っていかれておるな」

「カ・ム?」

「いや、それはまたあとで説明する。見たところ、あのクルーナー、おぬしたちの仲間が取り込まれているようだが」

「その通りだ」

「なるほど。しかし、おぬし」イミが俺の手足を指さした。「その状態でよく自我が保てておるな。いや、そうか、おぬしも、取り込まれたか」

「確かに、俺も一度クルーナーに取り込まれたことがある」

「往きて還りし者か」イミはみんなを見渡した。「この青い球で、あのクルーナーの攻撃を無力化できるかもしれん」

「あの」まひるが言った。「クシーは。中にいる魔法少女は、どうなるんですか」

「心配せずともよい。中の魔法少女に害はない。ただ、取り込まれた魔法少女と、クルーナーを分離できるかどうかは、別の話だ」

「分かりました」まひるがうなずき、みんなを見た。

「やろう」と、みんながうなずき返す。

「キジ」と、イミが犬のキジに手を置いた。「頼む」

 キジは「ワン」と小さく吠えると、稲妻のような光が四方からイミの持つ杖の先端に集まってきた。

 イミはクルーナー=クシーを見上げて言った。

「隠れよ、カ・ムの御使いよ!」

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