013 今、ツイッターって見れますか?
翌朝七時、無事に俺の変態解除を終えると、まひるはいったん『柳安荘』に寄ってから、学校に向かった。『柳安荘』に制服一式が置いてあるらしく、それに着かえて、学校に登校しているアバターと入れ替わるそうだ。
自分と全く同じ人間が目の前に存在しているというのは、どういう感じなんだろう。ちょっと想像できない。というか、俺のも作ってくれるんだろうか。今度、BBに聞いてみよう。
時差出勤の申請をしていたが、間に合いそうだったので、通常の出勤時間で出社した。通勤途中も、会社も、いつも通りで、俺はなんだか異世界に行って戻ってきたような感覚に陥った。自分の席に座り、PCを立ち上げる。いつもと変わらない日常がスタートしてしまうと、金曜の夜から昨日までの出来事がやたらと遠く感じてしまう。
「おはようございます」と、向かいの席の水原さんが出社してきた。ヒールを脱いで、足元のスニーカーに履き替えている。
俺は返事を返し、ほとんど無意識に、ちらっと、斜め向かいの席に目をやった。その席は先週から空席になっている。
「来月から、新しい人、来るみたいですよ」
水原さんの言葉に、俺は視線を向かいの席に戻した。
「え、そうなの?」
「聞いてないんですか、課長」
「知らない」
「総務の飯島さんがそんなことを言ってましたけど」
「そうか。あいかわらずこういうことは早いな、うちの会社」
水原さんは、それには答えず、「今日、昼前に出ますので」と言った。
「ああ、そうだった。今日は東京か」
「お土産、何がいいですか」
「ああ、いや、今日はいいや」
「え、珍しい。昨日は、週末東京スイーツレポート、チェックしてないんですか」
「うん、ちょっと、ばたばたしてて」
「ふうん。昨日は『いいね!』を押す人が一人減ったということですね。じゃあ、適当に買ってきます。帰りに渋谷あたりで」
「ありがとう」
と、若干イレギュラーな展開はありつつも、いつもの月曜朝の会話が終わり、俺は仕事に埋没していった。
午前中はメールのチェックや書類仕事であっという間に過ぎていき、昼食後の眠気が収まりつつある午後二時ごろ、企画書作成中に、その連絡が来た。LINEに、BBの文字。アイコンは、ご丁寧なことに、あの有名なギョロ目の男がこちらをじっと見ている絵が使われていた。なんかやだな、これ。
メッセージの内容は、『お疲れ様です。お仕事中すみません。山田さんのアバターの用意ができました。』とある。
俺にもあるんだ、アバター。っていうか、俺、BBに番号教えてないし、友だち申請も承認もしてないじゃん。怖っ。でもまあ、とりあえず、返事を送る。
俺『で、どうすれば?』
B『取り扱いの説明をしますので、来てもらってもいいですか』
俺『遅くなるけど』
B『かまいません』
俺『じゃあ、今日、仕事終わったら行く』
……返事が来ない。
五分後。
B『今、ツイッターって見れますか?』
ん?
俺『見れるけど』
B『未確認飛行物体か、中野上空で検索してください』
俺はツイッターで未確認飛行物体を検索してみた。
なんだこれ。
中野サンプラザと思しきビルの上空に、丸い物体が浮かんでいる。どう見ても、昨日俺たちが戦ったクルーナーだった。似たような画像や動画がどんどんアップされていき、それらのツイートには、#未確認飛行物体、#UFO、#中野上空といったハッシュタグが付いている。中には、#ブロードウェイ防空戦という訳の分からないものまである。
スマートフォンに電話がかかってきた。BBの表示。俺は空いている会議室に駆け込んだ。
「見た?」
通話ボタンを押すなり、BBが言った。
「見た。あれ、昨日のやつじゃないか」
「そうよ」
「あいつら、結界で普通の人には見えないんじゃないのか」
「突然すぎて、結界を張るのが間に合わなかったの」
なんてこった。
「それで、今は」
「張ったわ。姿は消えているはずよ。山田さん、今から行ける?」
今日は特に社内社外とも約束はないから、適当に訪問先を言って出れば問題ないだろう。
「行ける」
「ごめんなさい、アバターは初期設定がまだだから使えないの。じゃあ、準備でき次第、ひーさんに呼びかけて」
「わかった」
「それと、あのクルーナーは特殊よ。くれぐれも気をつけて」
「特殊?」
「通常、クルーナーは昼間は出現しないの。たいていは日没後、現れるわ。人の少ない場所で出現して、人口密集地域に移動していくのよ」
「それはまひるから聞いた」
「関東エリアはこれまで、赤羽、練馬ラインから南に侵入されたことはなかったの。埼玉、山梨、群馬、茨城、いずれかの上空で撃退してきたわ。それが今回、突如中野上空に出現した」
「それは、人を取り込んでいることと関係があるのか」
「分からない。クルーナーが人を取り込み始めたのは最近のことだから。それと、その取り込まれた人のことなんだけど」
「難しいのか」
「ええ。たぶんもう、切り離すのは難しいと思う。コアの破壊を最優先して」
「分かった」
「お願い」
俺は通話を切り、速攻で支度をして、会社を出た。
頭の中で、「まひる、こちらはオッケーだ」と、呼びかける。
「山田さん」まひるが答えた。「来てください!」
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