025 主に、筋トレっすね

「やっぱり、ひねくれてるなー、おっさん」

「やっぱりって、どういうことだ」

 ミラーの中のあかねは、腕を組んで窓の外を見ている。

「んー。これはBBが言ってたことやねんけど。あそこまでクルーナーの力を引き出せたっていうことは、おっさんの中に、ものすごい力が眠ってるんとちゃうかって」

「それも、良くない力が、だろ」

 あかねは、ミラー越しに俺と視線を合わせた。

「でも、これもBBが言ってたことやけど、一度融合しかけたコアを自力で解除できたのは、すごいことやって。なかなかできることやないらしい。だから、まひるん」

「わわ」

 あかねがまひるに抱きついている。

「そんな心配そうな顔せんでもええって。おっさんはもう、取り込まれたりはせえへんよ」

「は、はい」

 俺はそっとミラーの角度を変えて、まひるに顔が見られないようにした。

「じゃあ、質問その二は、まひるちゃんからということで!」と明日香が宣言した。

「え、え」と、まひるがうろたえている。

「ほらほら」明日香が小声でささやいている。「いろいろと聞きたいことあるんじゃない? 聞いちゃえ聞いちゃえ」

「ええと、じゃ、じゃあ」まひるが意を決したように言った。「しゅ、しゅ、趣味は何ですかっ」

 すこっ、という音と、「ふぎゃっ」というしんちゃんの声が聞こえた。「ごめん、しんちゃん」とあかねが謝っている。たぶん、あかねと明日香がずっこけて、あかねが思わずしんちゃんの頭を蹴飛ばしてしまったのだろう。

「な、なんか変でした?」と訊くまひるに、「いやいや、ぜんぜん変じゃないわよ」と明日香がとりあえず、といった感じで答えている。

「趣味かぁ」俺は真剣に考えた。「これといった趣味はないんだけど、休みの日はたいてい、ネット配信で映画を見たり、取りだめた深夜アニメを見てるな」

「そういえば、まどマギのブルーレイありましたもんね」と言うまひるに、「え、まじで?」「ええー。それってどうなん?」と、明日香とあかねの反応が厳しい。あれ。まひるとは全然リアクションが違うな。

「いや、別にそんなことはないよな、な、しんちゃん」

 と、俺は引きこもりでニートである、しんちゃんに助けを求めた。

「じ、自分、アニメとか、見ないので」

「え。そうなの? じゃあ、マンガとか、アイドルとか?」

「じ、自分、そういうの、興味ないっす」

「しんちゃん、普段、何してんの」

「お、主に、筋トレっすね」

「き、筋トレ?」

「ふふふ」あかねが笑った。「おっさん、それは偏見というやつや。しんちゃんの趣味は肉体改造なんや」

「は、はい。じ、自分、とにかく体、鍛えまくってます」

 まじか。「それ、家の中でやってるってこと?」

「そ、そうっす」

「こいつんち、金持ちやから、自分の部屋がトレーニングルームみたいになってるそうやで」

「へ、へえ」としか、言葉が出なかった。

「い、いえ、あかねさんのところほどじゃないっす」

「いや、うちは旧家やけど、お金はないで」とあかね。

「あかねんちは、やっぱり大阪?」と俺は尋ねた。

「芦屋」

「おー。芦屋かー」やっぱ、金持ちじゃん。

「あしやって、どこですか」と尋ねるまひるに、「兵庫県の高級住宅地だよ」と俺が答える。

「私、一回遊びに行きました!」と、明日香。

「普通やったやろ」

「想像していたよりはね。まあでも、お嬢さんっていうのは、間違いないわね。こう見えて」

「こう見えては余計や」と、あかねが笑いながら言った。

 そういえば。「ちなみに、みんな、どこに住んでるんだ?」

「ボクは神奈川だよ」と、くろちゃん。

「じ、自分、千葉っす」と、しんちゃん。

 二人とも関東圏なんだ。

「私は仙台」と、明日香。

「え。明日香ってそんな遠くに住んでたのか」知らなった。

「一応、魔法少女はゆるやかだけど、住んでる場所で担当エリアが分かれてて、私は北海道及び東日本全域、まひるちゃんは関東エリア、あかねは中部と関西、あと、今日は来れなかったけど、美穂ちゃんって子が中四国と九州担当」

「状況によっては連携とかバーターするし、ゆるい感じやけどな」

「わたしは新人なので、まだ自分が住んでる関東エリア限定なんです」と、まひる。

「なるほど」ん? 待てよ。「確かBBは、日本の魔法少女は今、五人だって言ってた気がするんだけど」

「ああ」と、明日香。「あの子は特別枠だから、気にしなくてもいいわ」

「ふうん」と、とりあえず俺はうなずいておいた。

「それでは、質問その三、行ってみよう!」明日香が手を挙げる。

「それ、まだやるのか」

 結局、それからも俺は彼女たちの質問に答え続ける羽目になり、質問その十でようやく勘弁してもらえた。でも、そのおかげでまひるも自然に会話に参加するようになり、目的地にはあっという間に到着した。

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