041 Winter, spring, summer or fall

「はあっ?」美穂が素っ頓狂な声を上げた。「なんか、そりゃ。そんげこつが、許されていいと思うちょるんか!」

 どん、と美穂がテーブルを叩く。

「まあまあ」と明日香がさくさくとルマンドを食べながら言った。「その気持ちはよく分かるんだけど」

「みぽりん、悪いけど、それ、うちらもうとっくにやってんねん。周回遅れ感バリバリやねん」と言いながら、あかねはぽりぽりと、じゃがりこを食べている。

 美穂の発言を受けて、「ごめん、みぽりん、ちゃんと説明する」と、あかねが手を合わせ、クシーのことを一から説明した後の反応が、これだった。

「うううう」と美穂はうなる。「クシー!」

「はい」

「クシーはそれでいいんか!」

「私はそれで構わない」

「だから、それももう、とっくにやったんやって」ぽりぽり、とあかね。

「せからしか! きさんら許さんわい!」と、美穂は吠えた。クシーに向かって。

「あんた、誰に向かって言うてんねん」ぽりぽり、とあかね。

「たぶん、そのセリフが言いたかっただけなんじゃない?」さくさく、と明日香。

「ち、違うっちゃ。わしは、正義のスケバンとして――」

「ありがとう」クシーが言った。

「い、いや」美穂が頭をかいている。「やかぃ、わしは、正義の――」

 そんなやりとりを横目で見つつ、俺はまひるのジト目の視線に耐えていた。

「知ってたんですよね」

 まひるは、すぐ隣に座って、俺を見ている。俺はグラスを口に運びながら、うなずいた。

「ああ、まあ、一応」

「なんで言ってくれなかったんですか」

「いや、言おうとしたんだよ」

「ほんとですか?」

「まひるん」と、あかねが助け舟を出してくれた。「今日、この場でおっさんは、クシーのことをうちらに説明するつもりやったみたいやで」

「そうなんですか?」

「ああ。先を越されてしまったけどな」

「そうだったんですね」

「いや、先を越されたどころじゃないな。君たちは俺たちよりもとっくに先の方を行っていたんだな」

「BBたちが大変なんも分かってるし、大人の事情もあるんやろうから、うちらも偉そうなことは言えんけど」あかねはにやりと笑った。「魔法少女を舐めんほうがええで」

「分かった」俺は言った。

 俺はまひるの方を向いた。

「すまなかったな。俺はまひるの犬だっていうことを忘れていたみたいだ。これからは、気をつける」

 まひるは、ぷいっと、顔をそらして、言った。

「分かりました。今回は許してあげます」

「さて」BBがみんなに向かって言った。「もうかなり時間がたっちゃったから、いったんここで締めましょうか」

「そうね」とひみか。「アバターじゃない人もいるだろうし」

「まだ残る人は残っていいわよ」BBは俺を見た。「それでいいかしら」

「構わないよ」

「じゃあ、山田さん、締め、お願い」

「俺?」

 BBは変わらない微笑みをたたえてうなずいた。

「じゃあ」と俺は口を開いた。「みんな今日は集まってくれてありがとう。さっきのクシーについての要求は最大限取り計らえるように努力する。俺もBBとは連絡を密に取るよ。あと、北大路さんが頼まれた件も、具体的にはたぶんこれから詰めていかないといけないと思うけど。もともと、北大路さんには、魔法少女と元魔法少女の支援について協力を要請されていたから、こちらもなんとかする。それで、一番大事なことなんだけど、これからも、全員協力してやっていきたいんだ。何かあったら、すぐに連絡してほしい。みんな、これからも、よろしく。ええと、どうしよう、乾杯でいいか?」

「そうね」ひみかがグラスを持った。「じゃあ、みんなで乾杯しましょう」

 みんな、それぞれグラスを持って立ち上がった。

「じゃあ、乾杯」

「かんぱーい」と、みんなの声が重なった。

 グラスの中身をみんなが飲み、席に座る。でも、だれも帰ろうとしない。

「あれ、美穂ちゃん、今日お店は大丈夫なの?」と、ひみか。

「今日はわし、アバターを使うちょるかい、大丈夫や」

「そうなんだ、珍しいわね」

「これからは、連携も多うなるやろうかい、積極的に使うことにしたちゃ」

「偉いね」

「まあ、うちがアドバイスしたんやけどな」とあかね。

「なんかこれはずるずると行くパターンね」と、BB。

「まあ、いいさ」と、俺。「酒癖が悪い奴がいるわけでもなし」

「ふふふ。それはそうね」

「ねえねえ」とひみかが俺とBBに言った。「そろそろ、日本酒にしない?」

「いいですねえ」とBB。

「じゃあ、取ってくるね。あ、そうだ」ひみかがみんなに言った。「忘れてた、みんな、デザートがあるわよ」

 そういえばさっき、冷蔵庫借りるね、とひみかが何か入れてたな。

 ひみかと魔法少女たちが果物を切って、みんなに配った。

「あのー」おずおずと、まひるが手を挙げた。「クシーに、歌を歌ってほしいなって、思うんですけど」

「おおー」「まひるん、ナイスや!」と、明日香とあかね。

「クシー、いいかな」まひるが、隣のクシーに言った。

「了解」クシーが立ち上がった。

「クシー、ここ、普通のマンションだから、音量調整してね」と明日香。

 クシーはこくりとうなずき、そして、静かに歌い始めた。

 その曲は俺も知っていた。

 それは、友だちについて書かれた曲だった。

 大切な友だちに語り掛ける、とてもやさしい曲だった。

 クシーはその曲の二番から歌い始めた。

 実は俺も、二番の歌詞が好きだった。

 それは、こんな歌だ。

『もしもあなたの頭上の空が

 暗くなり雲に覆われたら

 もしも北風が吹き始めたら

 顔をしっかりと上げて

 そして大声で私の名前を呼んで

 私はすぐにあなたの扉をノックするから

 ただ私の名前を呼ぶだけで

 私がどこにいても

 私は飛んで行くわ

 私はあなたに会いに行く

 冬でも春でも夏でも秋でも

 ただ私の名前を呼べばいい

 そしたら必ず

 私はあなたのそばにいる』


(『YOU‘VE GOT A FRIEND』CAROLE KINGより引用)

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