055 捕まえました!
「みんな、クシーから離れろ!」
クルーナー=クシーの足元の空間がぐにゃりと歪む。
クシーの第三段階は、重力を自由に操ることができる。そして、今、クシーは――。
ぐん、と一瞬、クルーナー=クシーの体が沈み込み、そして、一気に上昇した。
「おっさん」とあかね。「あれは――」
「クシーはたぶん」
ドン!
俺が言い終わらないうちに、まひるが飛び立った。大量の魔力を使って、猛烈なスピードで、クルーナー=クシーを追って上空へと駆け上がっていく。ほんと、お前はいつも。
俺はあかねに言った。「クシーは、反重力によって、大気圏外へ飛び出すつもりだ」
「それって、宇宙ってこと?」と、美穂。
「さすがにそれはヤバいんじゃ」と、明日香。
「じ、自分たちも、行ったほうがいいんじゃないっすか」と、しんちゃん。
「うん」「行こう」と、くろちゃんと誠くん。
たぶん、今から行っても俺たちでは追い付けないだろうけど。でも。
「そうだな」俺はイミを見た。
イミは言った。「ここまできたら、とことん付き合うしかあるまい」
俺はみんなに言った。
「行こう」
そして俺たちは、クシーとまひるを追いかけた。
はるか上空に、小さくまひるの姿が見える。犬の俺には、夜の空でも、魔法少女やクルーナーの姿が視認できる。クルーナー=クシーの姿はもう見えない。俺は、視界の隅に、外付けカメラ――そんなものがどこにあるのか知らないけど――の映像を最大望遠で写した。荒い画像の中、まひるが上昇していく。
俺は自分の手を見た。まだ棘がある。確か、クルーナー=クシーにも大きな棘が残っていたな。
待てよ。
俺は目を閉じて、クルーナーの、あのとき俺を取り込んだクルーナーの感覚を思い出そうとした。今から思えば、あの中、妙に心地よかったよな。クシーも同じ感覚だったんだろうか。クシーは今、あの中で、何を感じているんだろう。
突然、俺の手足からさらに大量の棘が突き出してきた。
「いいいい、痛ってててててて」
治まっていた痛みがぶり返してきた。
「おっさん!」隣を飛んでいるあかねが俺を見た。
俺は再び目を閉じた。痛みの先に、クシーを取り込んでいるクルーナーの存在がつかめるような気がした。俺は、この棘を通して、あのクルーナーとつながっている。
「大丈夫かいな」と、あかね。
「ああ。それより、まひるたちを」
「そっちは大丈夫」BBからの通信が入った。「こちらでトレースしてる」
俺は、両手に力を込めた。クシー。申し訳ないけど、そして、俺が言えた義理じゃないけど、今はまだ往かせない。悪いな。
つかんだ。俺の手の中に、何かを感じた。
その直後、俺の体が上空に持っていかれた。一瞬でみんなが後方に置いていかれる。
「ちょっと、どうなってるの!」と、明日香の声。
「クルーナーと俺の手足がつながった」強力な力に引っ張られて、俺はどんどん上昇していく。「なんとかなるかも」
俺は急制動をかけて、上昇する力に抗った。内臓が上に持っていかれる。腕がちぎれそうだ。
「速度が落ちたわ」と、BB。
「なんか分からんけど、がんばれ、おっさん」
「山田さん、がんばって」
「が、がんばってくださいっす」
「がんばれー」
「がんばっちゃね!」
「がんばってください!」
みんなの声援を受けて、俺は思い切り下方へと力を込めた。
「見えた!」まひるの声。
みんなが俺に追い付く。
「クルーナー停止」と、BB。「山田さん、クシーから解除権限を奪い返したわよ」
視界に、『行動制限』の文字。俺が実行を告げ、『承認』の文字が浮かぶ。
俺を引っ張っていた力が途絶えた。
「クシー!」まひるが叫んだ。「捕まえました!」
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