009 参上よ!
高速で飛行しゴムゴムの触手を引きつけつつ、俺はまひるの動きを目で追った。
まひるは至近距離から連続して光弾を放ち、相手が再生する前に外縁部を削っていく。あとは、スティックで直接ゴムを除去できるみたいだ。
よし。いい感じだ。
やがて、中の人間の上半身が現れ、まひるがそれに手を伸ばした。
「ああっ」というまひるの声が、俺の耳元に響く。
「なんだ、どうした」
「どうしよう」まひるの声が震えている。「コアと融合し始めてる」
俺はまひるの視点の映像を共有させた。俺の視界で小さなウィンドウが開き、まひるが見ている映像が映る。バレーボールほどの大きさの赤い球体と、取り込まれている人――五十歳前後の男性のようだ――の腕が一体化している。
「なんとか切り離せないのか」
「今ならまだ――」
俺は、息をのんだ。
はっ、とまひるが振り返った。
まひるの背後で、ゴムまりの本体が伸び、ぐるりとまひるの体を取り囲む。
「離脱しろ、まひる!」
俺の叫びと同時に、ゴムまりがぱくりとまひるの体を飲み込んだ。
「うぐっ」というくぐもったまひるの声が、俺の耳元に響く。
「おい、どうなってる」俺はまひるに呼びかける。「返事をしろ」
「だ、だいじょうぶ、です」
いや、あんまり大丈夫そうに聞こえないぞ。
俺は本体から距離を取った。触手は動きを止めている。
「内側からコアを破壊して、脱出しろ」
俺の呼びかけから数秒の間があり、まひるが答えた。
「だ、だめ、です。今、コアを破壊したら、融合しかかっているこの人まで消滅してしまいます」
まじか。どうする。
「腕ごと切断して、この前みたいに復元すれば」
俺の問いに、まひるは答える。
「ダメです。そんなことができるのは、魔法少女だけです。わたし、コアをなんとか奪ってみます。そうすれば」
まひるの声が途絶えた。
なんか、とてつもなく嫌な予感がする。
ぎりぎりという音が俺に耳に届く。これって、まひるの歯ぎしりの音か。
俺に攻撃の手段はないのか。武器は。武器はないのか。
「コアの融合を私に切り替えました」まひるの声が届いた。「この人は無事です」
ゴムまりの体は最初の三倍くらいに膨れ上がっている。内部を透視すると、中心にまひると思しき人影が、その下にもう一人の人影が横たわっている。
突如、俺の視界に赤い文字が浮かんだ。
『攻撃権限移譲』
光とともに、俺の眼前にラクロスのスティックが出現した。スティックが移動し、俺はそれを咥えていた。
おいおい、ちょっと待て。
「念じれば、光弾を射出できるようになってます」まひるが言った。「ほぼ最大出力の第一弾でゴムを吹き飛ばし、第二弾でコアを破壊、です」
やっぱり。
「今コアを破壊したら、お前はどうなる」
「消滅します」
「だめだ」
「このまま魔法少女との融合が完了したら、こいつはとてもやっかいなものになっちゃいますよ。なので、お願いします」
「お前、最初からそのつもりだったな。その人の身代わりになるつもりだったんだろ」
まひるはその言葉に答えず、言った。「消滅したら、魔力が残っているうちに、この人の落下を受けとめてくださいね」
ふざけんな。
「おい、BB!」俺は叫んだ。「どうせちゃんと見てるんだろ。なんとかしろ!」
ヴン、という音とともに、『SOUND ONLY』という表示が視界の隅に浮かんだ。
ダサっ。いいかげんエヴァの呪縛から卒業しろ。
「ごめんなさい」BBの声が響く。「私は戦闘に直接関与できなの」
まあ、そんなこったろうとは思ったけどな。くそったれめ。敵も俺の行動を読んでいるんだろう。ゴムゴムの触手がうねうねとした動きを止め、俺に狙いを定めた。
第一弾を撃つと同時に突撃し、なんとかまひるを引きずり出すしかないか。下手したら共倒れだが、あとのことはそのとき考える。
「でも、対策は打ったから、大丈夫」俺が攻撃を念じようとしたとき、BBは言った。「すぐに到着するわ」
その言葉とほぼ同時に、触手がいっせいに俺に襲いかかってくる。
回避行動を取ろうとしたその瞬間、俺の眼前に閃光が走った。
触手たちが消滅している。
視界をゴムまり本体に移す。
高高度からものすごい速度で、光の筋がゴムまりに向けて降下していく。
バシン!
光の筋が接触した直後、ゴムまりは落下し、下にある校舎の屋上で、バウンドした。
俺もそれを追って屋上に降下する。
屋上のコンクリートの上、俺の目の前に、ザン、と槍が突き刺さった。
その槍の柄の上に、制服を着た少女がふわり、と降り立った。
「最強の魔法少女、谷明日香」少女は槍の上で腕を組んだ。「参上よ!」
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