第36話
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036_襲撃
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「馬車が到着いたしました」
城からの迎えの馬車が到着したと、ソルデリクの報告を受けたオレは立ち上った。
黒顔病の蔓延によって延期に延期を重ねていた勲章授与式が行われることになった。その迎えの馬車だ。
「坊ちゃま、立派なお姿です」
「パルはさっきから同じことばかりだね」
「何度でも言いますとも。あのバカの鼻を明かしてやりましょう!」
バカというのは、元父親のことだと思う。パルは昔からあの人が嫌いだったから、今ではバカと呼んでいる。
「さて、行こうか」
今日の
当然ながら、貴族の中には元父親も居るだろう。
6家ある公爵家は全てこの王都に当主が詰めているため、城でのイベントには必ず出席するのが決まりだ。
「私が城までご案内いたします、ジョナサンと申します。サイ様でよろしいでしょうか?」
まだ40程の比較的若い執事のジョナサンが、慇懃に礼をする。
「サイです。よろしくお願いします。こっちは、メイドのパルメリスです」
パルはジョナサンに礼をし、大人しくオレの後ろに控えている。
「どうぞ、お乗りください」
ジョナサンが馬車の扉を開け、オレとパルが乗り込んだ。
車内にはオレとパルだけが入り、ジョナサンは御者の横に座った。
城には一度だけ登城したことがある。
貴族の付き合いのためなので退屈極まりないものだったが、城の雰囲気はあれで少しは分かっている。
今回の登城が楽しいものになれば良いけど、貴族の世界は一筋縄ではいかないもの。さて、どうなることやら。
「坊ちゃま。緊張されているのですか?」
「緊張……そうかもしれないね」
「まだ始まってもいないのですから、緊張する必要などないですよ。ウフフフ」
「そうか、そうだね。まだ始まってもいないんだ。緊張なんてしていたら、母上に笑われてしまうな」
馬車は順調に進んだけど、貴族街へ入る手前で荷車が倒れていて道を塞いでいた。
荷車の持ち主と思われる老人が道で倒れていて、その老人を介抱する人やちらかった荷物を動かそうとしている人が居る。
「サイ様。少しお待ちください」
ジョナサンが馬車から下りていき、状況を確認していると吹き飛んで倒れた。
「襲撃ですね」
「そのようだな」
オレは嘆息し、首を横に振る。
オレが王城に入ると困る奴が、嫌らしい笑みを浮かべている姿が浮かぶ。
「ぎゃぁぁぁ……」
御者の体に矢が刺さり、その場で動かなくなった。
「ちょっと行ってきます」
「手伝おうか?」
「坊ちゃまの手を煩わせるほどのことではありません」
そう言うと、パルは馬車から飛び出していった。
女性に対して言ってはいけないのかもしれないけど、頼もしい後姿だ。
ジョナサンは気絶しているだけで死んでいないので、傷を治してやる。
御者のほうはこと切れていたので、手を合わせて冥福を祈る。
しばらくすると、喧騒は収まった。パルにかかれば十数人規模の襲撃は赤子の手を捻るように簡単に収まってしまう。
騒ぎを聞きつけた貴族街の出入り口を守る衛兵が駆けつけてきた。
「怪しい奴め! 大人しくしろ」
「いや、オレは襲撃を受けたほうなんだけど?」
いきなり、衛兵たちに剣を突きつけられてしまった。
「黙れ! 騒ぎを起こし、多くの死傷者を出した奴の言うことなど、聞く耳持たぬわ!」
「国王から招待を受けて城に向かっていたオレを捕縛すると言うのか?」
「ふん、貴様のような平民風情が国王陛下の招待を受けるわけがなかろう!」
あぁ、これはダメな奴だ。
何より、この衛兵たちはこの状況を確認する前から、オレの敵対者だった。
つまり、この襲撃が失敗しても、オレはこの衛兵たちによって捕まるという筋書きなんだと思う。
「坊ちゃま、殺しますか?」
「うーん……あれでも正規の衛兵だからね……」
彼らは正規の衛兵。これをぶっ飛ばしたら、どんな理由があっても犯罪者になってしまう。
「仕方がない。彼らの言うようにするから、後のことは頼むよ」
「はい。お任せください」
衛兵に大人しく両腕を差し出した。
「ひっ捕えろ!」
衛兵が乱暴に縄をかける。彼らは勲章を授与される人物に縄をかけるという意味が分かっているのかな?
それともバックにいる人物が大物だから、護ってもらえるとでも思っているのかな?
勲章授与者は国王の賓客だよ? 護ってもらえると思っているほうがおかしい。
とは言っても、今回のことは歪められて国王に伝わるだろう。さて、どうなることか。
ここは貴族街の衛兵詰め所の地下にある地下牢。
手枷を嵌められ、じめじめとした地下牢に放り込まれた。
「せっかくの一張羅が汚れてしまったじゃないか」
わざわざこの日のために、新調したんだぞ。
ここには3つの檻があるけど、入っているのはオレだけのようだ。
両手には手枷、足も鎖で繋がれて錘がついている。なんともものものしい。
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