第39話
■■■■■■■■■■
039_後宮の闇
■■■■■■■■■■
「こちらがお母様の部屋になります」
ルシア様付きのメイドが扉をノックすると、少しだけ扉が開いて何か声をかけている。
「どうぞお入りください」
扉がしっかりと開くと、ルシア様の後に続いてオレも部屋に入っていく。
部屋はとても広く、中には王妃様付きのメイドが2人と男性が1人居た。
「国王陛下」
男性は国王陛下だったので、オレは慌てて頭を下げた。
「楽にするがよい」
「はっ」
「そなたのことは聞いている。黒顔病の鎮静化にも大きく寄与したとな」
ここではレッドドラゴンの話はしないようだ。
「与えられた加護が良かったのでしょう」
「そなたの加護について、聞かせてはくれまいか」
「王妃様の治療の後でもよろしいでしょうか、国王陛下」
「そうです、お父様。今はお母様の治療が優先されます」
「うむ、そうだったな。王妃のことを頼むぞ」
「最大限の努力をいたします」
王妃様はベッドに横たわり、浅い息をしていた。
「魔法を使います」
「問題ない。頼む」
国王に断り、アナライズを発動させる。
光の帯が王妃様の体を包み込む。
「………」
これは、毒か。
「長い間、体調が優れなかったようですね」
「はい、半年以上前から寝込んでおります」
ルシア様が答えてくれた。
オレの頭の中にいくつかの疑問が浮かんでくる。
王妃様は1年ほど毒を盛られている。それだけの期間、毒を盛るということは王妃様の近くに居る者がこの毒を盛っていることになる。
また、大司教にも診てもらったとルシア様が言っていたが、大司教であれば解毒は可能だと思う。
王妃様が目を開かれ、オレを見る。
瞳は虚ろで、焦点が合っていない。
そして、ゆっくりと瞼を閉じた。
もう数日遅かったら、王妃様の命はなかっただろう。
「サイ様。お母様は治りますでしょうか?」
オレはゆっくりと振り向き、国王とルシア様を見つめた。
「王妃様は病ではありません」
「それはどういうことか?」
「王妃様の体を蝕んでいるのは、毒です」
「「なっ!?」」
国王とルシア様だけではなく、メイドたちも驚いていた。
つまり、この2人のメイドも毒のことは知らないということだ。
「その証拠はあるのか?」
「証明はできます」
「してみせよ」
「はい。王妃様の髪の毛を1本と、あの水槽の小魚をいただいてもよろしいですか?」
「それで証明できるのであれば、構わぬ」
メイドの1人に王妃様の髪の毛を1本とってもらい、部屋の中にある水槽の中に細かく切って入れるように頼んだ。
「なっ!?」
「まあっ!?」
1分後には腹を上にして水面に浮かぶ小魚の姿があった。
その光景に、国王とルシア様が驚きの声をあげた。
毒は髪の毛にも蓄積する。それを細かく切って水槽に入れたら、水が毒に汚染されたのだ。
「小魚は体が小さいので、わずかな毒でもこうやって死んでしまいます」
「まさか毒だとは……」
「この毒は長く飲み続けることで、効果を発揮します。王妃様は1年程以前から毒を盛られ、半年程前から寝たきりになったようです」
「治せるのか?」
「今から解毒を行います」
「頼む」
「全力を尽くします」
―――デトックス。
毒を解毒。
―――キュア。
毒に犯された部分を浄化。
―――リジェネレーション。
体内の細胞を再生。
これで王妃様の体は健康な状態に戻った。
「治療は終わりました。もう大丈夫です」
「お母様!」
ルシア様が涙を流して喜んだ。国王も、目を伏せている。
その時、王妃様の瞼が開き、ルシア様と国王に視線を向けた。
「ルシアは何を泣いているのですか?」
張のある優しい声。
「お母様!」
ベッドに横たわる王妃様に抱きつくルシア様。
ルシア様にオレと同じ悲しみを味わってほしくないから、王妃様が治って良かった。
「オレはこれで失礼します」
国王に断って王妃様の部屋を出ようとしたが、国王に呼び止められた。
そのまま部屋の隅に連れていかれる。
「王妃のことは、言葉に言い尽くせないほど感謝している。今回のことに、余は必ず報いるつもりだ」
「いえ、オレは当然のことをしたまでですから、気にしないでください」
「そうはいかぬ。が、今はそれ以上に確認したいことがある」
「……なんでしょうか?」
国王の視線が非常に鋭いものに変わった。
「毒のことである」
やっぱりそのことか。
「サイは、王妃が1年前から毒を盛られていたと言ったな」
「はい、言いました」
「それができるのは、誰か?」
「まず第一条件として、王妃様と1年以上直接的、間接的に接触できる人物です」
「うむ……続けよ」
「第二に、食事や飲み物、その他口に入れるものに触れる機会がある人物」
国王が頷く。
「第三に、あれが毒であると見抜くことができる目を持つ者」
「……それは、医師だと?」
あれが毒なのは、医師であれば分かるだろう。
分からなければ、藪医者だ。
「医師だけではないかと」
医師以外にも治療に当たっているよね。
「……サイの考えは分かった。ご苦労であった、2日後の授与式までゆっくり休むが良い」
「はい。ありがとうございます」
国王はそれ以上聞かなかった。聞けないんだろう。
聞けば引き返せなくなる。
それは、王国と神殿の訣別を意味するのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます