第40話

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 040_授与式

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 城の廊下を歩いていると、見知った顔を見つけた。

 その人物は、オレを待っていたようだ。


「サイジャール。ずいぶんと派手にやっているな」

「レッドドラゴン程度で豪炎宝珠勲章フラムがもらえるんだ、ずいぶんと簡単だな」


 俺の祖父インディアス・ディゴ男爵。

 貴族なので豪炎宝珠勲章フラムの授与式に呼ばれたのだろう。


「そのことで、ワシはわざわざこんなところまでやってきたんだぞ」


 遠出が厳しいのなら、隠居すればいいのに。


「その目はなんだ? 隠居しろとでも言うのか?」

「分かってるじゃないか。そうすればお婆様を温泉に連れて行く時間だってできるぞ」

「ワシは生きている限り現役だ」


 祖父がニヤリと笑った。非常に悪い笑みだ。何だ?


「王妃の治療をしたそうだな」


 思いっきり話を変えたが、それが本題のようだな。


「王家に恩が売れたのは、大きいぞ」


 だが、国王は神殿と事を構えるつもりはない。


「王家は今回のことを穏便に済ますはずだ。トカゲの尻尾切りで終わると思うぞ」

「それは王家の問題だ。お前が作った恩とは別のものよ。ククク」


 爺さんはそう言って、歩いて行った。

 掴みどころのない爺さんだけど、爺さんが今のディゴ男爵家をここまで大きくした。

 商人貴族などと揶揄されても、屈辱にまみれても、大商会を築いた。それは凄いことで、誰でもできることではない。エロジジイだが、その点に関しては、爺さんを尊敬している。


 オレも目的の場所へ向かう。これから勲章授与式だ。

 大広間に入ると、多くの貴族が居並んでいる。

 オレは真ん中を歩いて大広間を進んだ。

 今さら緊張する必要もないだろう。胸を張って歩いた。

 玉座に座る国王の前で膝を付き頭を垂れると、声がかかる。


「サイはレッドドラゴンを討伐した。その功績によってここに豪炎宝珠勲章を贈る」


 大臣が目録を読み上げていく。

 その最中に、オレの背筋にビビッと電気が走った。

 これは、何かスキルをかけられた感じだ。

 多分、国王に一番近い場所に立つ宰相が、鑑定を使ったんだろう。目を見開き、オレを見つめているから間違いないと思う。


 宰相はこの国でも1、2を争う鑑定士でもある。

 その鑑定から得た情報を使い、この国の宰相にまで上り詰めた。


 国王が官僚から勲章を受け取り、オレの胸につける。

 他に報奨金が贈られると読み上げられて、授与式は終わり。だったはずだけど……。


「サイの功績はレッドドラゴンを討伐だけではない。黒顔病の沈静化にも多大な功績を残し、さらには王妃の治療も行った」


 玉座に座りなおした国王のその言葉に、貴族たちがざわめく。

 そんな話をするとは聞いてないオレも、国王が何を言うのか注目した。


「よって、サイに千医せんいの称号を与える」


 千医? 初めて聞く称号だ。


「千医には、どのような治療も行える『千の手を持つ医師』という意味を込めている」

「「「おおお!」」」


 貴族たちのざわめきを手で制して収めた国王。


「今後、サイには特命後宮医師となってもらう。この特命後宮医師とは、後宮医師では治療できない病や怪我などが発生した時に、王族の治療を行ってもらうものである。よって、サイには今まで通り市井しせいで活動してもらって構わぬ」


 オレが王妃様の治療を行った後、王妃様を診ていた後宮医師が捕縛されたそうだ。

 王妃様に毒を盛ったというのが理由だ。

 本人は否定しているようだが、医師か食事に関わる者以外に継続的に毒は盛れないのだから捕縛されても仕方がない。

 それに、あの毒を見分けられないのは後宮医師として力不足。それも罪になるのが、後宮医師という職業である。


「千医の称号をいただき、感謝の言葉もありません」


 国王が鷹揚に頷いて玉座を立つと、貴族たちが背筋を伸ばして退場する国王を見送った。


 

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