生活魔法はハズレスキルじゃない

なんじゃもんじゃ/大野半兵衛

第1話

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 001_生活魔法で追放

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 あと1カ月で15歳になるある日、オレは父親に呼ばれた。


「サイジャール。お前を廃嫡し、このアールデック公爵家より追放する」

「………」


 来るべき日が来てしまった。

 オレが廃嫡されるのは、既定路線。だから、何も不思議ではない。


 ・

 ・

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 オレ、サイジャール・フォン・アールデックは公爵家の嫡子として、日々研鑽し血の滲むような努力を積み重ねてきた。

 今のオレの立場は微妙だ。それは、異母弟の存在がある。

 オレは公爵家の嫡子だけど、弟はオレと同じ年齢。しかも、オレと10日違いの誕生日。


 オレの母が公爵夫人だったけど、母はオレが幼い時に他界している。そのため、この弟の母が今の公爵夫人。

 この継母によってオレは幼い時から虐げられてきた。自分の息子を公爵家の跡取りにしたいのを隠しもしない人物なんだ。


 もうすぐオレは15歳になる。この国では15歳が成人なので、社交界デビューが控えている。

 継母はその前にオレを殺すか追い出したかったのだ。父親も継母の言葉に耳を貸し、オレを廃嫡するのは分かっていた。


 13歳の時、『加護授けの儀』という儀式で、弟は剣神の加護と剣帝というスキルを得た。

 剣系スキルには、剣士、剣豪、剣王、剣帝、剣聖という位階があり、弟は上から2番目の剣帝だった。

 上から2番目の剣帝は、事実上の最上位スキル。1番上の剣聖はこの1000年出ていないし、剣帝でも数十年に1人のレアスキルだ。


 それに対してオレの加護は女神アマリアの加護で、スキルは生活魔法。

 女神アマリアはまったく知られていない神だ。『加護授けの儀』の時、神官が「誰それ?」という顔をしたのを覚えている。

 生活魔法はハズレスキルと言われるもので、貴族が持っているとかなりバカにされる。それというのも、生活魔法は薪に火を点けたり、飲み水を出す程度の魔法でしかないからだ。


 そんなオレは、とうとう父親から廃嫡を言い渡された。


「生活魔法などというハズレスキルしか持たない、お前を家には置いておけぬ」

「………」

「明日、朝一でこの屋敷を出ろ。以後、アールデックを名乗ることは許さん」

「………」

「返事はどうした」

「分かりました」


 2年前からオレの廃嫡は決まっていたのだ。否、あの継母がモノグロークを生んだその日から決まっていたのだ。

 今さら何を言おうと、この父親は考えを翻すことはないだろう。


「今よりモノグロークを嫡子にする。以後、励めよ」

「はい、父上!」


 このモノグロークという大柄というよりも無駄に大きい奴が、オレの弟。

 細身のオレとは似ても似つかない弟だ。どれだけの栄養を摂れば、こんなに大きくなるのだろうか?


「聞いたか、サイジャール! お前は今日で廃嫡だ。俺が嫡子だぞ!」


 これがこの弟の本性。兄を兄とも思わない傲慢な性格の弟。今さら驚くことではない。

 オレはこの弟にこれまでに何度も酷い目に合わされてきた。

 ある時は階段から落とされ、ある時は剣で背中を切られた。おかげで、オレの体にはいくつもの消えない傷跡が残っている。


「当然ですわ! 生活魔法のようなハズレスキルのサイジャールに、このアールデック公爵家を任せるわけにはいきません!」


 継母はオレを追放できて、とても嬉しそうだ。

 それもそうだろう、長年モノグロークを嫡子にしようと画策してきたのだから。

 継母にしてみれば、やっとかという思いなんだろう。


「話は以上だ、下がれ」

「………」


 オレは軽く頭を下げて、俯きながら父親の部屋を出た。

 今は父親に、いや継母やモノグロークにも顔を見せられない。

 こんな顔を見せたら……。


「坊ちゃま。お話は終わりましたか?」

「ああ、終わったよ。パル」


 彼女はパルメリス。オレの専属メイドだ。

 褐色の肌をしたダークエルフで、オレが生まれる前から仕えてくれている。


「坊ちゃま、顔がにやけてますよ」

「だって、嬉しいんだもん」


 オレに貴族なんて似合わない。

 だから、元々貴族になるつもりはなかった。

 それでも、祖父がどうしてもと言うので、この家に残っていた。


「廃嫡されて追放なのに、変わった坊ちゃまですね」

「聞いていたのかい?」

「聞こえましたから」


 ダークエルフは耳がいい。否、パルの耳がいいのだ。


「明日の朝一で屋敷を出ろだって」


 歩きながら、パルに話す。


「明日ですか?」

「こういうのは早いほうがいいと思うから、今から家を出ようと思う」

「お供いたします」


 パルは母に従って、この家にやって来た。

 母はすでに亡く、その息子のオレもこの家から出て行くとなれば、パルは必然的についてくる。

 それは分かっていたことなので、特に驚くこともない。


「おい、サイジャール。二度と俺たちの前に現れるなよ、このクズが!」


 廊下を歩いていると、後ろからモノグロークが叫んだ。

 あれで公爵家の嫡子なのだから、貴族の質は地に落ちたものだ。



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