第2話

 ■■■■■■■■■■

 002_ジョンソン

 ■■■■■■■■■■



「坊ちゃま。どこに向かわれますか?」


 アールデック公爵家を出たオレに寄り添うように歩いているのは、褐色の美女で専属メイドのパル。

 彼女が歩く度に胸がブルンブルンと揺れる。彼女は爆乳なのだ。


「追跡者は居るかな?」

「居ません」


 生活魔法の使い手に、暗殺者を送ることはないか。

 あの継母であればそれくらいはしてくると思ったが、暗殺者を送るにも金がかかるからな。


「とりあえず、ジョンソンのところに行く」

「ジョンソンですか」


 ジョンソンというのは、公爵家出入りの商人のこと。

 パルはジョンソンと聞いて顔を歪ませる。


「そんなに嫌がるなよ。パルとも古い付き合いだろ」

「あのクソジイなどと付き合いはありません」

「はいはい」


 なぜか2人はいがみ合っている。

 オレが生まれる以前に何かあったのだろう。

 でもオレは知っている。2人はかなり仲がいいのだ。喧嘩するほど仲がいいと言うが、それを体現している2人なのだ。


 町中を歩きながら自分のステータスを確認することにした。

『加護授けの儀』を経た者は、全ての者がステータスを呼び出せる。



 加 護 : 創造の女神アマリアの加護

 スキル : 生活魔法【創】

 才能 : 【魔法戦士SSS+】

 武器 : 【剣A+/SSS+】【棍棒C+/S】【槍D/S-】【弓D/A】

 魔法 : 【生活魔法A+/SSS+】



 オレに加護を与えたのは、創造の女神アマリア。

 創造の女神というのは、この世界を創ったとされる創造神のことだ。その名前がアマリアというのは知られていないが、創造神は神々の最上位に君臨する神の中の神のことである。

 つまり、オレは最高神の加護を得ているということだ。

 このことをあの継母が知ったら、奇声を発して悔しがることだろう。そのことを想像しただけでも、笑みが浮かんでくる。


 公爵家でステータス確認されなかったのは、良かった。

 確認されていたら女神アマリアの正体が創造神だと知られて、父親も継母も大いに騒いだはずだ。

 父親のほうは創造神の加護を得たオレをあのまま家に置いておいただろうし、継母は怒り狂ったことだろう。

 継母はオレを追い落とすはずだったのに、創造神の加護を得たとなれば、国王もオレを公爵家の世継ぎとして公認すること間違いなしだから。


 そうなるとあの継母は、確実にオレを殺そうとしてくるはず。

 オレを闇から闇に葬り、モノグロークを公爵家の跡取りにしようとするだろう。あの継母の思考は分かりやすいから、そのくらいすぐに想像がつく。

 だから、距離を取って力を蓄えようと思う。暗殺者が送られてきても、撃退できるだけの力を身につけなければいけない。


 貴族という地位には、なんの未練もない。それどころか、貴族になりたいとも思っていない。

 それは、オレが前世の記憶を持っているせいかもしれない。しかも、前世と前々世の2つの記憶を持っているのだ。


 前々世では賢者、前世では大賢者と呼ばれた。

 魔法の才能は、加護やスキルに依存するところもあるが、努力や研鑽によるところがなければ、賢者や大賢者と呼ばれることはなかっただろう。


 前世の記憶が甦った直後、今世では何をしようかと考えたことがある。結論は簡単に出た。

 前世でやり遂げられなかった、世界の果てを見るということをしたいと。


 だが、世界の果てを見るのは、簡単なことではない。

 この世界にはオレの知らないことが、まだまだたくさんある。

 その旅に出るには、まだ力不足だ。だから、しばらくは力をつける必要がある。


 さて、生活魔法の後ろに【創】とついている。

 これは、一般的な生活魔法ではなく、創造神の加護を持つ者だけが使える生活魔法という意味になる。

 この生活魔法【創】を簡単に説明すると、『生きるため、活動するために必要な全てを魔法化して使える』という感じになる。


 一般的に知られている生活魔法とはまったく違うものだ。

 この生活魔法【創】は、世界最高の魔法を具現化できるもの。オレのニーズに合った魔法が使えると考えていい。

 試しに、オレに敵意を持った存在をサーチしてみよう。


「―――エネミーサーチ」


 視界に半透明の円形のマップが現れた。

 中心の青○はオレ。そのすぐ後ろの青〇はパルのもの。

 周辺に白○がたくさんあるが、これは敵ではなく一般人という意味。

 そして……オレの約15メートルほど後方に赤●が二つある。

 これは、身なりの良いオレが、美人のメイドを引き連れて歩いていることで、カモにしようとしているはぐれ者だと説明が出た。敵意を持たれているのは不愉快だけど、放置して問題ない人物たちだ。


「坊ちゃま。殺しますか?」

「いや、いい」


 怖いことを言うパルだが、パルは気配で敵対者の存在が分かる。

 戦闘力では、オレはパルの足元にも及ばないだろう。


 赤レンガの壁が特徴の店に入った。

 店員とは顔見知りだから顔パスで店の奥へ入っていくと、目的の人物を発見した。


「これはサイジャール様。本日はどのようなご用でしょうか?」


 この白髪でシワが多い老人は、この『ジョンソン商店』の店主のジョンソン。

 公爵家出入りの商人。そして、オレの爺さんがトップをしている大商会傘下の商人だ。

 オレの母方の爺さんの爵位は男爵だが、商会を経営している。口さがない人たちは、商人貴族と揶揄するが、このオルドレート王国では比肩する商会がないほどの大商会だ。

 その爺さんの商会傘下にこのジョンソンの商会もあり、王都にある複数の店の統括をしている。

 爺さんからしたら、ジョンソンは片腕だ。


「家を追い出された」

「それは……真で?」


 額のシワが深くなるほど、ジョンソンは目を見開いた。


「ああ、予想通りオレを追い出しにかかってきたよ」

「……奥様が草葉の陰で嘆いておりましょう」

「母さんももう諦めていただろうさ」

「残念にございます。サイジャール様」


 ジョンソンは目に薄っすらと涙を浮かべ、懐から取り出したハンカチで拭った。


「これからどうされるのですか?」

「世界は広いんだから、見て回ろうと思っている」


 世界の果てを見たいと言ったら止められそうだから、やんわりとした言い方にしてみた。

 なんと言ってもジョンソンは爺さんの片腕。オレが危険な場所に赴くと言えば、必死になって止めてくるだろう。


「なるほど、見聞を広めることは良いことです」


 ジョンソンはにこりと微笑んだ。世界の果てを見たいと言ったら、オーガのような形相をしていただろう。


「しかし、総会長にはサイジャール様からご報告されたほうがよろしいでしょう」

「そうだな。爺さんにはオレが話すよ」

「はい。魔動車を用意しましょう」

「頼む」


 こうして、オレたちは母方の実家に向かうことにした。


 ●フォロー・応援・応援コメントをよろしくです!●

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る