第3話

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 003_爺さん

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 爺さんは領地持ち貴族なので、その領地の城に住んでいる。

 オルドレート王国の貴族には、領地持ち貴族と宮廷貴族の2種類がある。

 領地持ち貴族はそのまま領地を持っている貴族だが、宮廷貴族は国に仕えている貴族のことだ。

 領地持ち貴族は自領から上がってくる税があるが、宮廷貴族は領地がないので国から貴族年金が支給されている。

 何が言いたいかというと、領地持ち貴族と宮廷貴族は仲が悪いのだ。


 魔動車の中ではパルがオレの横に座り、その爆乳を押しつけてくる。

 彼女はオレ専属のメイドだが、オレにセクハラするメイドだ。もっとも、オレ自身、まんざらでもないのだが。


 爺さんが治める町が見えてきた。

 王都よりも堅牢だと思えるほどの防壁だ。城の防壁が重厚なのは分かるが、町を守る防壁まで堅牢ときている。

 この男爵領を攻め落とすのは簡単ではない。そう思わせるだけの、堅牢な守りの領地だ。

 まあ、金だけはあるので、これだけの守りができるのだろう。


「坊ちゃま、到着しました」


 魔動車から降りると、エントランスの前に執事とメイドたちが並んで待っていた。


「お久しぶりにございます。サイジャール様」

「ロクスウェル、久しぶりだな」


 ロクスウェルは男爵家の筆頭執事。

 背筋に棒でも入っているかのような佇まいだが、真っ白な白髪をオールバックにしている老人だ。

 他の執事とメイドたちの間を通り、城の中に入って行く。

 広い城内を我が物顔で歩き、爺さんの部屋に辿りつく。てか、広すぎるだろ。

 爺さんの部屋の扉を、ロクスウェルがノックすると「入れ」と声が返ってきた。爺さんの声だ。


 爺さんは白髪を伸ばして、首の後ろでまとめている。見た目はダンディな年寄だが……。


「よく来た!」


 俺のほうに手を広げて駆けて、飛びついてくる。

 バスンッ。パルに殴り落とされて、床に激突した爺さん。

 飛びつこうとした相手はオレではなく、パルである。


「相変わらずですね、このエロジジイは。さっさとクタバレばいいのです」


 パルの言葉が辛らつだ。

 パルの爆乳を触りたい、顔を埋めたい、パフパフしてほしい。そう思うのは、分かるが、この爺さんは孫に挨拶もないのか。


「爺さん。オレは公爵家を追い出された」

「そんなことよりパルよ、ちょっとは受け止めてくれてもいいのではないか?」


 公爵家追放を「そんんこと」で片づけられてしまったオレは、怒っていいよな? 殴っていいよな?

 その爺さんはパルのスカートの中を覗こうとほふく前進しながらにじり寄ったが、パルに頭を踏みつけられている。

 その顔がにやけているので、そういう趣味があるのだろう。これでも王国一の大商会を率いている人物なんだぞ。


「おい、ジジイ。オレの話を聞く気はあるのか?」


 首根っこを掴んで持ち上げる。


「あん? そんなもんは、すでに知っている」

「だったら、説明する必要はないな」

「何を言っているのだ。可愛い孫との触れ合いの時間だ。じっくり話を聞こうではないか」

「……パルとの触れ合いの間違いではないのか?」

「そうとも言う」


 このエロジジイは……。

 パルを連れて来るといつもこうだ。

 爺さんをソファーに放り投げ、オレもソファーに座る。

 パルは俺の横に座り、その爆乳をオレに押しつけてきた。その光景を見た爺さんは、「ぐぬぬぬ」と言いながらオレを睨みつけてくる。


「かくかくしかじかだ」

「サイジャールよ、それは端折りすぎだろ」

「もう説明する気が失せた」


 すでに知っているのであれば、俺が言う必要もない。

 ソファーに座ったのは、祖母が淹れたお茶を飲むためだ。


「サイちゃん。お爺さんはサイちゃんが来るのを首を長くして待っていたのよ。もう少し相手をしてあげてちょうだいな」


 優しい微笑みを浮かべた祖母は、こんなエロジジイを立てるいい奥さんだ。


「お婆様の頼みであれば、仕方がありませんね」


 オレはお婆様が好きだ。

 年齢を感じさせない美しさもそうだが、全てを包み込むような包容力があり、心がホッとするような温かみのある笑みをオレに向けてくれる。

 お茶を飲んで爺さんに追放のことを語った。

 お婆様もソファーに座ってその話を聞いていて、目に涙を浮かべた。


「これからどうするつもりだ?」

「しばらくは王都で治療院と冒険者をして、力をつけたら旅に出ようと思う」

「冒険者は分かるが、治療院はなぜだ?」

「魔法の訓練をするのに、丁度いいんだ」

「冒険者でも魔法は使えるだろ」

「オレのスキルは攻撃魔法も使えるけど、困っている人を助けるほうがより効果が高く、練度も上がりやすいんだ」


 スキル・生活魔法【創】は『生きるため、活動するために必要な全てを魔法化して使える』ものだ。

 攻撃魔法よりも回復や人を助けるための魔法のほうが、熟練度が上がりやすい特性がある。


「力をつけたら旅をするのだな?」

「広い世界を見て回りたいんだ」

「男の子はこのくらいのほうがいいわね。うふふふ」


 お婆様は許してくれた。


「な、ならんぞ! サイジャールが遠くに行くということは、パルちゃんも遠くに行くということだろ! ワシは絶対に許さん!」


 ドゴッ。


「ぐへっ……」


 爺さんはお婆様に顔面を殴られて黙った。


「サイちゃんの好きにしていいのよ。もちろん、パルちゃんもね」

「「はい」」


 どんな相手にでも辛辣なパルだが、お婆様にだけは丁寧な対応をする。

 お婆様の懐の深さゆえとオレは思っている。


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