第4話

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 004_アールデック公爵~屈辱のポーンス~

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 サイジャールを追放したアールデック公爵家。

 当主のポーンスは部下から提出された書類の処理をしていた。


「今日に限ってなんでこんなに書類が多いのだ」


 デスクの上に山のように積まれた書類に、毒づく。


「これまではサイジャール様がほとんどを処理されておりましたので」


 部下がサイジャールの名を出すと、ポーンスはギロリとその者を睨みつけた。


「も、申しわけございません」


 部下は慌てて謝罪するが、書類はどんどん増えていく。

 これまで書類の9割はサイジャールが処理していた。どうしても当主の決済がいるものだけをポーンスが処理していたのだ。

 これまでたった1割を処理するのに、9割を処理していたサイジャールよりも処理速度が遅かったポーンスなので、書類はどんどん溜まっていく。

 サイジャールは1ページを1秒ほどで読み、数ページある書類でも10秒に満たない時間で理解する。それなのに、的確な指摘をしていた。

 だが、ポーンスでは1ページを読むのに数分かかり、1つの書類の内容を理解するのに軽く30分以上かかる。これでは書類が減るよりも増える速度のほうが勝るのは当然である。


 山のような書類が残っているポーンスだが、昼からは王城に登城する。

 オルドレート王国には10の公爵家がある。そのうち4家は国王と王家の者に与えられるため、実質的に公爵家は6家あることになる。そのうちの1家がアールデック公爵家なのだ。

 6公爵家は俗に言う宮廷貴族である。宮廷貴族は領地を持たない貴族のことで、アールデック公爵家も領地は持っていない。

 宮廷貴族は貴族年金を国からもらっているが、国の役職に就くと俸給ももらえる。

 だが、アールデック公爵であるポーンスは、役職についていない。では、なぜ登城したのかというと、評議会が開催されるからだ。

 評議会というのは、国の重要案件を話し合うための場である。重要案件というのは、軍事行動や法律の制改廃(制定、改定、廃止)などを指す。

 評議会のメンバーは宮廷貴族から5家、領地持ち貴族から5家、そして王族から3名が選出されるが、これは役職ではないため俸給はでない。最重案件に関する名誉を与えているというのが、国のスタンスだ。

 そもそも、本来は国王が決める事案を評議会が決めているのだから、国王からすれば「お前ら邪魔」と思っていることだろう。


 宮廷貴族の5枠のうち、3枠は公爵家が占めている。6公爵家が交代で評議会議員となっているのだ。

 他の全枠に関しても、王族以外は伯爵以上の上位貴族が選出されるのが慣例である。


「聞きましたかな? アールデック公爵家のサイジャール殿が廃嫡されたようですぞ」

「聞きましたよ。生活魔法のサイジャール殿であろう」


 評議会が開催される会場へ向かうポーンスの耳にこんな噂話が聞こえてきた。

 生活魔法なのだから、廃嫡されても当然だ。とポーンスは考えているため、その貴族たちも同意するものと思っている。


「アールデック公爵もバカなことをされる」


 その言葉を聞いたポーンスは、頭に血が昇るのを感じた。

 だが、ここで出て行って喚き散らしては、自分が非を認めているようで恰好が悪い。


「サイジャール殿と言えば、幼き頃から魔法を操る神童ではないか。スキルが生活魔法だからと言って、宮廷魔導士長も舌を巻く精度で上級魔法を扱うのだろ? スキルなどなくても素晴らしい才能を持っていたものを」

「魔法だけではないぞ。あの剣王がサイジャールには教えることがないと言うほど、剣の才能にも恵まれていたのだ」

「剣帝を得たとは言え、あの次男などを嫡子にするくらいであれば、サイジャール殿を嫡子のままにしておくがな」

「本当だ。あの次男、たしかモノグロークだったか? あの体で動けるのか? 剣帝を得た後、あいつが魔物を狩ったとか聞いたことがないぞ?」

「あれは歩いたり走ったりするのではなく、転がっているのだ。剣など扱えるわけがないだろ」

「それもそうだな。ハハハ」

「「「ハハハ」」」


 ポーンスは拳を作り、奥歯を噛んだ。

 公爵である自分が、下級貴族などにバカにされていていいわけがない。

 飛び出して制裁してやると思ったところに、貴族がもう1人加わった。


「お主たち、そんなところで噂話をしていて、アールデック公爵に聞かれたらどうする」

「どうもせぬさ。落ち目のアールデック公爵に睨まれたところで、痛くも痒くもないだろ」

「そうだそうだ。サイジャール殿が居なくなり、次があれではアールデック公爵家はもうダメだろう」

「公爵家を支えていたのがサイジャール殿なのは、全ての貴族が知っていることだ」

「神童と言われたサイジャール殿を追放した時点で、あの家は終わっている。ハハハ」

「「「「ハハハ」」」」


 なんという屈辱だろうか。

 ポーンスはあまりの怒りに、しばらく打ち震える程であった。

 気づけば、噂話をしていた貴族たちは居なくなっており、制裁をすることはできなかった。


 評議会の場でも、ポーンスを見る議員たちの目はいつもと違っていた。

 これまで親しく声をかけてきた貴族でさえ、声をかけてこない。

 ポーンスはまるで針の筵の上に座っているような肩身の狭さだ。


「これも全てあの無能のせいだ!」


 評議会から帰る途中の魔動車の中で、ポーンスは叫び散らした。


「くそっ! こうなったら、あの無能に思い知らせてやる!」


 勝手に追放しておいて、勝手に怒って、勝手に恨むポーンス。

 恨まれるサイジャールにしたら、納得がいかないことだろう。


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