第45話

祝コミカライズ!

コンプティークで連載開始!

毎月10日発売。


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 追01_ある旅先のこと

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 今から200と数十年前、俺は転生魔法を使った。

 その時の俺は齢170を過ぎていた。おそらく人族で170歳まで生きたのは俺だけだろう。俺は魔力を体中に循環させることで、老化を遅らせていたのだ。

 老化を遅らせるにしても限度がある。人族の体では、200歳まで生きることは叶わないだろう。

 だから俺は転生魔法を開発した。それを行使したのが、200年とちょっと前の話だ。


 俺が転生魔法を発動させた後、エルフ戦争が始まった。

 前世の俺のパートナーでありよき理解者であったダークエルフのパルメリス・モノトリー(愛称:パル)は、その戦争に参加したらしい。

 転生してから聞いたことだが、俺が生まれ変わるまで時間があったので暇つぶしだったらしい。

 パルを敵にしたエルフは気の毒だったと思う。転生前の俺を除けば、世界最高で最強の魔法使いであるパルは、大国の軍を敵に回しても1人で戦える化け物だ。

 案の定、エルフは負け、ダークエルフは勝った。パルが居なかったら、ダークエルフの勝ちはなかっただろう。


 さて、転生魔法はすぐに転生できるものではない。俺の魂を受け入れることができる、器(体)が必要なのだ。

 自慢ではないが、俺の魂は大きい。だから、それだけの器を形成する魔法も同時に発動させ、200と数十年後に生まれたのが―――。


 ―――俺ことサイだ。


 エルフは魔力量の多い種族として有名だが、俺は一般的なエルフの数倍の魔力量がある。魔力の量は前世を超えたが、まだ若い俺には成長の余地がある。前世以上の魔力量になるのは間違いないだろう。


 俺は世界の果てを見てみたいと思って、旅立った。

 この世界には4つの大陸があると認識されている。サルディス大陸、アロンド大陸、フェルデン大陸、ドラドレン大陸だ。

 フェルデン大陸から見ると、アロンド大陸は東にあり、フェルデン大陸は北にあって、共に航路が開拓されている。

 だが、ドラドレン大陸は他の3つの大陸とかなり離れているため、あまり入植が進んでいない。


 ドラドレン大陸は前世の俺が発見した大陸だ。発見から300年近くが経過しているが、入植はあまり進んでいない。3つの大陸からかなり遠く、船で大海原を横断しなければならないので、危険が多いというのが理由だ。


 だが、本当にそうなんだろうか。


 これはサルディス大陸の情報だ。つまり、魔法文化が最も進んでいるフェルデン大陸や機械文化が進んでいるアロンド大陸では違った情報があるかもしれない。


 サルディス大陸には2大国がある。1つはオルドレート王国。もう1つはバルサージュ帝国だ。俺が生まれたのは、オルドレート王国。

 前世の俺が生きていた時もこの2つの国は大国だった。ただし、他の大陸の大国に比べると、中堅国家というところだろう。


 オルドレート王国を出た俺とパルは、バルサージュ帝国のチャコル・ベルフェスという町へと至った。

 俺が知る限り、この町は大陸最東端の町でアロンド大陸への航路がある。このチャコル・ベルフェスはアロンド大陸との交易の拠点として栄えているのだ。


「これは良いコショウですね。購入しましょう」


 市場を歩いていると、コショウがパルの目に留まった。

 帝国はコショウの産地でも有名なので、ここから船に載せてアロンド大陸へ輸出するのだろう。その一部がこういった市場で売りに出されているわけだ。


「おじさん、コショウを10キロもらえるかしら」

「あいよ! お姉ちゃん美人だから、おっちゃん、がんばって安くしちゃうぞ~♪」

「まあ、美人だなんて、嬉しいわ」


 パルがほほ笑めば、男性店主なら勝手に値段が下がる。美人というのは特なものだと、つくづく思う。


「バレジアのオレンジも美味しそうです。坊ちゃま、私とどっちが美味しそうですか?」

「パルさんや、往来の真ん中でそういうことを言わないでくださいな」


 オレンジを両手に持って胸に当てて揺らしても、オレンジの大きさではパルの爆乳には勝てない。せめてメロンを持ってきてくれ。

 あぁ……果物屋のおっちゃんの目が、パルの胸に釘付けだ。奥さんに肘鉄喰らわされてるぞ。


 旦那は奥に追いやられ、奥さんが対応。この場合は、値引きはない。パルの笑顔も同性には、効かないようだ。


 帝国はコショウだけではなく、オレンジも特産品だ。インロのコショウ、バレジアのオレンジ、ウオヌンの小麦、セインの紅茶、ノーザンアフメの宝石、他にも多くの特産があって潤っている。


 市場を通りすぎると、港に出た。

 多くの船が停泊していて、出入りも多い。帝国内の港へ向かう小・中型の船、海を渡ってアロンド大陸に渡る大型の船、多種多様の船が出入りしている。

 俺たちはアロンド大陸へ渡ろうと思っているので、チケット売り場に入った。

 やろうと思えば、飛んで海を越えることができるが、距離があるので船で行こうということになった。


「ペルケオスへの船は、いつ出る」


 チャコル・ベルフェスからアロンド大陸のペルケオスという港町への航路は、前世でもあった。共に交易港として栄えていて、人と物が集まる港町だ。


「3日後の正午になります」


 貨物船はいくらでもあるが、人間を運ぶ客船は数日に1回しか出ない。貨物船でペルケオスに渡ることもできるが、客船とは快適さが圧倒的に違う。


「上級船室を2人分」

「お1人様小金貨8枚、お2人様で小金貨16枚になります」


 2人分の上級船室のチケットを購入して、収納する。

 通貨に関しては、王国の単位がギルに対して帝国はルザルになる。

 通貨の交換レートは1万ギルに対して9000ルザルになっているが、その時の情勢によって稀に変動するらしい。

 交換レートは国の強さではなく、貨幣に含まれている金の割合で決まっている。そのため、交換は小金貨以上、つまり1万ギル(9000ルザル)以上でしか行っていない。

 小金貨と大金貨でしか交換を行ってないのは、金の含有量と贋金の管理が厳格に行われているためだ。国をまたいで影響を及ぼすため、両国が協力してしっかりと管理しているのだ。

 逆に銀貨や銅貨は国単位で管理していて、影響はその国のみになる。


「小金貨8枚とは、ずいぶんと高いですね。以前、使った時はもっと安かったはずです」


 パルの記憶は正しい。ただし、それは数十年、もしくは100年以上昔の話だ。少なくとも、この16年程は俺のそばに居るのでそれ以前の話になる。


「金には困ってない。それくらい構わんさ」


 俺たちだけ高額な金額を取られているのなら腹も立つが、他の人たちも同じだ。

 船室のグレードで差はあっても、同じグレードの船室なら同じ金額を払っている。


「それよりも、今日の宿をとろう。いい宿が埋まってしまうぞ」

「承知しました」


 市場で買い物をした時、この町の高級宿について情報を集めた。

 以前(前世)でも泊まったことがある宿が、今もあるということなので向かった。

 重厚な石造りの高級宿で、俺の記憶にあるものと差はなかった。メンテナンスはしても、大幅な改築などはしていないのだろう。こういった趣というものは、とても大事なものだと俺は思う。


 ロビーは全面に絨毯が敷かれ、靴越しにその柔らかさを感じる。

 スタッフはお揃いのユニホームを着ていて、高級宿はこういうところがビシッとしていて所作や言葉遣いが丁寧だ。

 紳士淑女がラウンジで話をしているのを横目に、俺たちはフロントへと進んだ。


「2人で2泊したい。スイートは空いているかな?」

「少々お待ちください……1部屋空いております」


 スイートルームが1つだけ空いていた。高級宿は宿泊後に支払いになるが、俺は前金で渡した。


「お荷物をお運びします」

「いや、アイテムボックスがあるから、必要ない」

「承知しました。では、ご案内いたします」


 本当は収納魔法だが、スキルのアイテムボックスと言ったほうが理解されやすい。


「なんだと!? スイートがないだと!?」


 スタッフが部屋まで案内しようと歩き出したところで、フロントで大声を出す商人風の小太りの男が居た。

 スイートは俺たちで最後らしいぞ。ちょっと遅かったな、オッサン。


「坊ちゃま、面倒な臭いがします」

「いや、スイートは俺たちがすでに押さえたし」


 パルの言葉を否定したら、オッサンがギロリと俺を睨んだ。


「おい、お前! スイートをワシに譲れ!」


 見事にパルの勘は的中した。


「嫌だし」

「3倍の金をやろう。それで文句はないだろ」

「金には困ってないし」

「ぐぬぬぬっ。お前は目上の者を労わろうという心はないのか?」

「ない」


 そもそも俺より目上と、自分で言っている奴なんかに部屋を譲る気にはならん。


「き、貴様!」

「うるさい。黙れ。豚は豚舎にでも泊まればいい。ここは人間様が泊まる宿」


 パルさんや、それは言い過ぎだろ。

 あ~ぁ、オッサンが顔を赤くしたり青くしたり、スッゲー怒ってるぞ。


「お客様」


 女性スタッフが出てきた。20代前半に見える。かなり美人だ。

 その女性スタッフがオッサンを宥めすかした。こういう客用の説得係のような役割なのかな。

 青筋を立てて怒っていたオッサンが、どんどんだらしない顔になっていく。おそらく、なんらかのスキルを使っているんだと思うが、便利なものだ。

 オッサンが鼻の下を伸ばしている間に、俺たちは部屋に案内された。


「パル。騒ぎを起こそうとしただろ」

「なんのことでしょうか?」

「あのオッサンに、俺たちがスイートに泊まることを聞かせようとしたんだろ」

「いやですね。スイートと言ったのは坊ちゃまではないですか」


 俺も言ってからしまったと思った。だが、あそこでパルが話を振らなかったら、あんなことにはならなかった。

 絶対、面倒ごとになるのを楽しんでいたはずだ。


 

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