第34話

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 034_恐怖の伝染病3/3

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 高級住宅街や貴族街の黒顔病が収束するのに、3カ月近くかかった。

 結局、オレのところにやってきて治療を受けた貴族もかなりの数になった。

 使用人も罹患していた者は、治療してやった。

 最初からそうしていれば死人はもっと少なくて済んだが、それを言っても仕方がないこと。

 そうそう、貴族からはたんまりと謝礼をもらっている。だから、かなり懐が潤った。


 貴族は何度も神官の回復魔法をかけてもらえるが、貴族の家で働いている使用人たちはそうはいかない。

 多くの貴族たちは、使用人の治療費を出すことはないからだ。

 つまり、貴族街の死人のほとんどは使用人たち。彼らは貴族の傲慢の犠牲になってしまったのだ。


「今回のことで、貴族の中にもサイ様の噂が広がっております。もちろん、神官の間でもです」


 以前、魔力欠乏症の治療をしたロザリアの父親であるゾルドー辺境伯もオレのところにやってきて治療を受けた。ゾルドー辺境伯はかなり偏屈だったが、偏屈者同士オレと気が合った。

 そのゾルドー辺境伯がオレのことを吹聴したおかげで、他の貴族もオレのところに治療に来た。

 神官たちはきっとオレのことを憎々しく思っていることだろう。彼らの権威と特権を脅かす存在は、彼らにとって神敵にも等しい。

 貴族のほうは、オレのことを調べていることだろう。そして、オレがアールデック公爵家を追い出されたサイジャールだと知る貴族も出てくるだろう。

 そのことが、あの家にどう影響するか分からないけど、追い落とそうとする貴族がオレに接触してくるかもしれない。

 邪な心でオレに近づく奴は、きっと痛い目を見ることになるだろう。オレは利用するのはいいが、利用されるのは嫌いだからな。


「問題は黒顔病がなんでこの国で流行り始めたかだな」

「他の国が流したようには思えません。なにせ特効薬がないので、黒顔病が国内に入ってきたら危機的な状況になりかねませんから」


 ギルマスの言う通りだ。そうなると、誰がという思いがあるが、黒顔病は自然発生してもおかしくない。昔流行った黒顔病菌がどこかで眠っていて、動物を介して人間に感染した可能性は十分にある。


 ギルマスが帰っていった。

 愚痴が多かったが、管理職には部下に言えない苦労があるのだろう。


「坊ちゃま。ご苦労様でした。食事にしますか、お風呂にしますか、それとも私にしますか?」

「……うーん、迷うけど、まずは食事にするよ」

「えー、そこは私と言うところですよ」

「いや、パドスや子供たちも居るから、それはなぁ」


 メディスとパドスが子供たちと共に畑から丁度戻ってきたので、一緒に食事にすることにした。

 パルはパドスたちを睨みつけていたようだけど、子供たちに罪はないと思うんだ。だから、その殺気はメディスとパドスにだけ向けてくれ。


 冷や汗をダラダラ流したメディスとパドス、そして子供たちと一緒に食事を摂る。

 子供たちとパドスは最初の頃はフォークもまともに使えなかったが、今はちゃんとテーブルマナーを覚えた。パルやソルデリクの厳しい指導の賜物だ。

 そういうのは、できるだけ早く覚えさせたほうがいい。大人になってからでは、パドスのようにかなり苦労するからな。


「薬草の生育はどうだ?」

「問題ないです。全て順調に育っています」

「そろそろロカイの在庫がないので、明日採取しておいてくれ」

「分かりました」


 以前のようなトゲトゲしたものはなく、最近は素直になったパドス。パルたちの教育という名の矯正が効いているみたいだ。

 パドスはスラムの中に家があったらしいけど、母親はどこかで飲んだくれているので、帰っても誰も居ないらしい。だから、今はこの屋敷の別宅に住んでいる。朝が早いのでそのほうが、都合がいいそうだ。

 ボロンボとメディスも子供たちと共に別宅のほうで住んでいて、別宅はかなり賑わっている。

 賑やかな食事が終わると、メディスとパドスが子供たちを連れて別宅へ。


「坊ちゃま。お風呂にしますか? それとも、わ・た・し?」

「それじゃあ、風呂で」

「もう、坊ちゃまのいけずー」


 どうせ風呂に入ってくるんだろ? 同じことだよね?


 予想通りパルは風呂に入ってきた。お互いに頭からつま先まで洗い合う。

 彼女の胸は程よい柔らかさと弾力があり、本当に触り心地が良い。

 お尻は引き締まっているけど、こちらも程よい弾力がある。太ももなんか、とても柔らかいんだ。

 オレだって男だからね、パルの妖艶な姿を見ていると、我慢できなくなるわけで……。


「ウフフフ。この世の天国を味わってください」


 オレは天国を味わった。


 翌日、ロカイで石鹸造りをする。

 この石鹸はパルが試供品をばら撒いたおかげで、ご婦人方にとても評判がいい。

 どうしても売ってほしいというご婦人方の圧力に負けたオレは、石鹸を商品化することにした。

 パドスたちが畑の面倒を見てくれるので、薬草は安定して育っているので売っても大丈夫だろう。

 俺の石鹸を扱うのは、ジョンソンの大番頭だったベイルの店だ。暖簾分けで店を出すので丁度良かった。


 黒顔病も下火になってきたので、孤児たちの住む家を作ろうと思う。

 その家には薬草畑と、石鹸の生産工房を併設しようと思っている。

 そうすれば石鹸を安定供給できるし、孤児たちを育てる資金を得ることができる。

 丁度良いことに、この屋敷の周囲は空き地だ。開発をしようとしたところに、黒顔病の流行があったため頓挫している。

 サンドルにはすでに話をつけているので、空き地の一部を買い取っている。


「ソルデリク。ボロンボのところの孤児で、石鹸作りをしたいという子供が居たら、作り方を教えてやってくれ」

「承知しました」


 孤児の教育はソルデリクやアルテミスに任せればいい。

 ただし、無理やりやらせる気はない。孤児たちがどうしたいか、しっかりと意思を確認するつもりだ。


 

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