第33話

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 033_恐怖の伝染病2/3

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 冒険者ギルドは迅速に動いた。

 あのギルマス、なぜかオレの話をよく聞いてくれる。

 ただし、国が迅速に動いたかというとそうではない。


 黒顔病がスラムに広がるよりも先に平民街で広がり、それはすぐに貴族街に広がった。

 貴族街で多くの人が寝込むと、国もやっと重い腰を動かした。


「そこに運んで」


 オレの屋敷には、連日100人を越える黒顔病の罹患者が運び込まれてくる。

 今もパルが罹患者を寝かせる場所を指示して忙しい。

 しかし、こういう時にオレの屋敷の周囲に建物がないのは助かる。

 これだけの伝染病患者が運び込まれてくると、普通は周囲の住人から苦情が出る。

 だが、オレの屋敷の周囲には家がないので、無用な混乱や軋轢を生まずに済む。


 毎日100人規模の人に魔法をかけている。

 最初は黒顔病を治療に慣れていなかったので、かなり苦戦した。

 普通なら完全に治すところだが、こういった伝染病は完治させるとまた再発するのだ。

 だから、症状をかなり軽くしてやって、あとはその人が持っている治癒力を高めてやるのがこの伝染病の治療方法だ。

 そうやって、体内に抗体を作らせることで、再び黒顔病に罹患することはなくなる。


「坊ちゃま、本日はこのくらいで」

「そうだな。さすがに疲れた」


 毎日これでは、さすがのオレも参ってしまう。

 だが、ここで弱音を吐くわけにはいかない。罹患した人たちのほうが辛いんだ。


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 黒顔病はオレが危惧したように、王都中に広がった。

 感染力が非常に強く、発症したら致死率80パーセント。

 貴族であれば、この情報を持っていておかしくないので、王都を出て避難する貴族が多く現れた。

 だけど、そういった貴族が罹患していない保証はなく、そういった貴族の行動で黒顔病が地方へと広がるのに、それほど時間はかからなかった。


 さて、冒険者ギルドの働きのおかげで、スラムや平民街は封鎖された。

 そのおかげでスラムや平民街は黒顔病の封じ込めに成功した。

 ただし、そのことで餓死者が出たのは言うまでもない。


「黒顔病の罹患者は富裕層や貴族のほうが多いようです」


 冒険者ギルドのギルマスが、オレの治療院を訪れた。

 まだ封鎖されているけど、冒険者ギルドは平民街にあるので、ギルマスがここに来ることはできる。


「黒顔病は接触感染するから、その予防は衛生的な環境だ」

「サイ様のご指示通りに我々はスラムと平民街で、手洗いと衛生環境の向上に努めました。その甲斐あって、スラムでは200名、平民街でも150名ほどの死者に抑えることができました。本当に感謝しております」


 スラムと平民街では黒顔病は沈静化しつつある。

 罹患しても死ぬ前にオレのところに来れば、助けてあげることができる。

 ただし、富裕層と貴族が住むエリアは、好き勝手なことをして被害を拡大させている。今も感染は広がっているとギルマスが教えてくれた。


「この黒顔病の拡大によって、サイ様の授与式も無期延期になってしまいました。残念です」

「そんなものは、どうでもいい。それよりも王都以外の状況はどうだ?」

「はい。当ギルドの各支部から、サイ様が教えてくださった対策を広げております。ただ、頭の固い領主も多く、まだ沈静化はできておりません」

「帝国や他の国はどうだ?」

「オルドレート王国との国境を封鎖し、黒顔病の封じ込めを行っていますので、被害は限定的のようです」

「そうか。それは不幸中の幸いだ」


 とにかく、黒顔病を国内に入れないことが、被害を最少限に収める方策だ。


「しかし、神殿の神官たちにはガッカリです。日頃、大きな顔をしているくせに、こういった事態になんの対策を打ち出せないとは、本当に残念です」


 神官たちの回復魔法は黒顔病を完治させる。ただし、治ったと思っても再発してしまうのだ。

 本来、人間が病気にかかって治癒したら、その病気に対して抗体を作って免疫ができる。病気にもよるが、一生その抗体を持ち続ける場合もある。

 神官たちの回復魔法は病魔を完全に消し去ってしまうので、抗体ができないのだ。

 オレの場合は病魔を消すのではなく病魔を弱らせて、さらにその人の治癒力を底上げしてあげることで抵抗力をつけるようにしている。

 だから、オレが治療した人たちは2回目の黒顔病にかかることはなく、神官に治してもらった人たちは黒顔病に何度もかかってしまうのだ。


 このことは冒険者ギルドを通じて神殿に伝えてもらっている。

 しかし、神官たちはオレと同じことをしない。というか、できないのだ。

 アナライズのような患者の体の状態を確認できるスキルがあればともかく、神官たちにそういった魔法やスキルはない。

 鑑定というスキルはあるのだが、この鑑定ではその人をどうやって治療すればいいか分からないのだ。


「高級住宅街と貴族街では、多くの死人が出ているそうです。嘆かわしいことです」


 スラムと平民街は、富裕層が住む高級住宅街や貴族街から完全に隔離されている。

 そのためスラムと平民街の黒顔病の被害はほぼ収束しているが、高級住宅街や貴族街はかなり酷い状況らしい。


「オレにはどうにもできない相手だ。自力で収束させるしかない」


 オレたちは高級住宅街や貴族街に入ることはできない。元々平民が簡単に入れない場所なんだが、今は完全に封鎖されているのでなおさらだ。

 彼らは自分たちのような特別な者が黒顔病で困っているのだから、平民や貧民ならもっと酷い状態だと思っているようだ。

 実際にはまったく逆の状況なんだけど、彼らは信じて疑わないのである。


 

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