第54話

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 追10_意趣返し完了

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 さて結論から言うと、トーマを殺した犯人は、妹の旦那だ。

 ベタな展開だが、トーマが死ねば妹が会社の実権を手に入れる。それによって旦那の会社への仕事の発注増を狙った。まあそんなところだろう。


 トーマが殺害された前後、金遣いが荒くなった、もしくは借金返済などを行った者を探した。全方位で探すのではなく、食い詰めているような奴だけが対象だ。人を殺しても失うものがないような奴だな。

 これでなんの情報も得られなかったら諦めるつもりだったが、そこまで苦労せずに情報が手に入った。さすがはパルだ。


 あちこちに借金をしている男が、最近借金を綺麗にしたという情報だ。

 その男の周囲を確認して回ると、たしかに借金がなくなっていた。表立って大きな声で言えるような仕事をしたわけでもないから、裏の仕事をしたのだろう。

 少し見張っていると、妹の旦那に接触した。金のむしんをしていたのだ。


 妹の旦那も借金で首が回らないはずなのに、さらに借金をしていた。理由は事業拡大らしいが、そんな話はない。あるとすれば、トーマ亡きあと妹経由の仕事だろう。

 おそらく追加で借金した金で、トーマ殺しを依頼したのだ。


 しかしその後が良くなかった。実行犯の男は、妹の旦那につきまとった。後ろめたいことがあるのはお互い様だが、妹の旦那には子供も会社もある。守るべきものが多いため、誰かに知られるわけにはいかない。言われるがままに金を払ったようだ。


 ここまでが推理と入手した情報による考察だ。

 証拠はない。そもそも俺は衛兵ではないから、犯人を捕まえようと思ってはいない。俺の旅の邪魔をした奴に、その報いを受けてもらおうと思っただけだ。だから証拠ではなく、俺が【そう確信した】それだけで問題ないのだ。あとちょっとの好奇心を満たすことか。





 場末の酒場から出て来たのは無精髭を生やした小汚い男だ。

 路上で立ち●ョンしているところに、そっと近づいて喉に短剣を突きつける。


「な、なんだてめぇ」

「俺の質問に正直に答えろ。そうすれば痛い目に合わずに済む」

「ちっ。物取りじゃねぇのか? 官憲か」

「官憲ではないから、安心しろ」

「何が聞きたいんだ」

「トーマを殺したのはお前だな」

「さーてな、俺は何もしてねぇぞ」


 短剣を持つ手がわずかに動き、その先が首に刺さる。


「俺は面倒な問答をする気はない。答えないならお前を殺して終わりだ」

「……分かった。答えるから、それを離せよ」


 刺さっていた先を抜く。同時に男が動き短剣を奪い取ろうとする。俺は腕を軽く捻って、男の右手首を切り裂いた。


「ぐあっ」

「無駄な足搔きをするから、腱を斬る羽目になる。これに懲りたら、質問に正直に答えるんだな」

「くそがっ」


 まだ向かってくる男の左手首の腱を斬る。


「ぎゃぁっ」

「お前程度の腕では俺に敵わん。それさえも分からんバカか。もういい、死ね」

「ま、待ってくれ! 言う、言うから殺さないでくれ!」

「言うなら早くしろ。俺は気が短いんだ」

「トーマを殺したのは俺だ。シューザーに依頼されたんだ」


 シューザーというのは、妹の旦那の名前だ。


「そうか。それだけ聞けば十分だ」

「ちゃんと言った。命は取らないでくれ」


 男のそんな言葉を全部聞くことなく、俺は姿を消す。

 男はきっと殺されると思っていたから、面食らっていただろう。あんな奴は殺す価値もない。両手首の腱を斬ってあるから、今までのようには暮らせないはずだ。生きていくのに今まで以上に苦労することだろう。


「坊ちゃまは優しすぎます」


 すーっと俺の横にパルが現れる。漆黒の闇のような髪はまったく揺れない。動きに無駄がない証拠だ。


「あの男を殺さなかったことか?」

「はい。あんな虫けら以下のクズは殺してしまえばいいのです」

「あいつはもう剣を握れない。どうせゴミ溜めのようなところで野垂れ死ぬんだ、今簡単に殺すよりも苦しんで死ぬことになると思うぞ」

「腱は治るかもしれないですよ」

「その時はその時だ。俺の知ったことではない」


 どうせもう二度と会わないだろし、そこまで憎んでいるわけじゃないんだからどうでもいい。


「シューザーはどうしますか?」

「(俺の邪魔をした)罰は与える」

「殺しますか?」

「いや、せっかくだから借金を増やしてもらう。それからトーマの妹に、このことを教えてやろうじゃないか」

「妹がシューザーを殺すように仕向けるのですね!」


 そんな重い展開を期待するなよ。


「どうするかは、妹次第だな。俺はシューザーの借金を増やして意趣返しができればそれでいい」


 旅を邪魔された程度で殺したりはしないからな。

 シューザーの借金を倍にしてやる程度で済ませてやるつもりだ。


 ソルデリクを召喚。


「お呼びでしょうか。旦那様」

「お前にやってもらいたいことがある」

「なんなりとお申し付けください」


 あの村長宅を出た後、二人の仇を殺したソルデリク。顔には出さないが、機嫌がいいようだ。

 仇はもっと居たようだがすでに死んでいる者も多く、追跡は難しい。


 オーランドはあの後討伐されたようだが、村長夫婦はアルテミスに拷問を受けて気を狂わせて死んでいった。それでアルテミスの気も済んだようだ。

 主犯格のオーランドや村長に仕返しできたことでソルデリクたちの気が済み、俺はソルデリクたちとの約束を果たした。


 これで心置きなく成仏すると思ったが、ソルデリクたちは俺の下に留まっている。

 恩を返すとか言っているが、これまでソルデリクたちはよく働いてくれた。俺はそれで十分だと言うのだが、そうはいかないと言い張っている。まあ、好きにさせるさ。


「シューザーの借金の借用書を貸し手、借り手用のセットで手に入れられるか? 一セットあればいい」

「問題ありません。直ちに手に入れてまいります」

「頼むぞ」


 ホテルでパルのパフパフを受けつつお茶をしていると、ソルデリクが帰って来た。


「こちらが借用書です」


 シューザーが持つ分と、金を貸したほうの分がある。

 これにゼロを増やしてと……。


 犯罪だって? だから何?


 シューザーは借用書の控えを持っていない。そして借用書はこっちにある。


「この借用書の額面の一割で構わん、これを質の悪い金貸しに売って来てくれるか」

「お任せください」


 えげつない金貸しにこの借用書を売り飛ばせば、あとはそいつが全てやってくれる。


「さて妹のほうだが、手紙だけ送っておくか」


 妹はシューザーを助けず、実家の家業を優先した責任がある。

 シューザーがここまで追い込まれる前に、手を差し伸べるべきだった。夫婦というのは、助け合って生きていくものだが、それをしなかった妹にもしっかり苦しんでもらおう。


 証拠なんてないが、シューザーがやったことを記した手紙を送る。信じようと信じまいとどうでもいい。

 疑心暗鬼になるか、妹がシューザーを告発するか、シューザーを殺すか、どうなろうが興味はない。


 俺の旅の邪魔をしたシューザーへの意趣返しは、借金を増やし、妹に密告することで済んでいる。あとはあいつらの問題だ。


「それじゃあ、旅を再開しようか」

のところに向かうのは気が進みませんが、坊ちゃまの行くところにパルありです!」


 

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